MK

すべての夜を思いだすのMKのレビュー・感想・評価

すべての夜を思いだす(2022年製作の映画)
4.2
仕事がら見慣れた多摩ニュータウンが素材と聞いて鑑賞。とても素敵な映画だったけど、被写体が公営住宅だけだったのは少し残念だったなぁ。

ニュータウンに迷い込んだり、ニュータウンで仕事をしてたり、ニュータウンで生活を営んでいたりする三人のお話。シーンがゆったりしていてのんびりというか序盤、退屈にも感じたりしたけど、物語や人物がしっかり描かれ、活かされながら関係性が生まれていくあたりから引き込まれた気がする。高低差はあるものの歩行と自転車とバスで結ばれる限られた緑豊かな空間と閑散とした空間のミスマッチの妙というからそんな持ち味が満遍なく表現されていた印象。

上手く言えないけど、物語も世界観も含めて心地よい映画だった。最後の花火のシーンはノスタルジーとも違うなんとも言えない浮遊感で、出会えてすごく得した気分。

仕事柄、多摩ニュータウンは人よりは知識があると思うけど、ニュータウンという特性、抱えている問題や失われつつある善きものなどなど、すごい的確にというか丁寧に捉えられていて、とっても感激してしまった。

他の作品も是非観てみたくなった。


…あとはニュータウンや団地にまつわる個人的なつぶやき。。

団地建替の学生コンペの最終プレゼンテーションを聞く機会があり、学生さんが『団地には木々が溢れ森が豊かに生い茂っています。』と発言して驚いたことをよく覚えている。

体制に抗う社会闘争も根強いなか、乱開発と批判を浴びながらも不足する住宅供給のために計画が実行され、住宅の充足と共に迷走した感のあるニュータウン計画。

無機質、画一的と批判された団地が有機的な緑の育成によって、次の世代に豊かな空間と評価されることは本当に意外だった。

人間の営みは多様的で個性的なのだから建物も部屋もキャンバスみたいに真っ白でいいのに…という自論があるせいかもせれないけど。

作品の舞台はそんなニッチな空間の象徴ともいえる多摩ニュータウン。
日中、こういった団地を訪れるとまるで異空間に来たような感覚に陥る。高齢者ばかりの公共交通機関と敷地内を歩く人々、あとは修理やメンテナンス、それこそ検針などに訪れる作業員たち。
仕事を始めたばかりのころ、虚しさというのか抜け殻のようなその場所がなんとも居た堪れなかった。

でも取り残され朽ち果てるものがある一方、熟成された時間と空間も嫌でもそこにはある。
そして人々の営みや記憶、戦後の昭和と歴史は浅くても高度成長期の人々の信じてやまなかった成功体験のひとつがここにはあったと感じる。

画一的で通り一編の幸せが大量生産されることの良し悪し、そんなものは自分にはよく分からなかったけど、そういったものに対する憧憬はここに息を潜めているのではないかなとも思う。

最近ではそんなものの良さを再発見してくれる若い方も増えてきて、再循環や再生につながる事例も増えてきたと感じるけど、イベントは刹那的なものではなく、昭和という時代を線でつないで、決して否定しないような文化が育まれていくことを願うばかり…映画関係なくなった 汗。
MK

MK