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オッペンハイマーのMKのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
アッという間の3時間。
音楽や効果音の助けもあった気がするけど、物理的思考劇な一面もありながら、生い立ち、量子力学との出会い、核兵器の開発、そして名声を奪われてからの日々…それぞれのシーンが輻輳しながらのスリリングな展開をしっかり観ることができた。

言わずと知れた原子爆弾の開発者、原爆の父。

人間の知恵とそれらがもたらす全てを焼き尽くすほどの圧倒的な炎の誕生。

人並外れた知性と好奇心、宇宙の仕組みに対する探究心の挙句の諸行?
戦争終結のための解決方法の模索、或いは先進的技術を誰よりも早く発明することへの好奇心だったのか…

クリシュナの言葉の引用らしい

『我は死神なり 世界の破壊者なり』

戦争終結の歓喜とその裏に確実に存在する大量の殺戮への呵責…圧倒的な力を恐れるのではなく、それを利用しようとする強欲への反発。そして政治や経済に翻弄され、追放されてからのアインシュタインとの一幕まで、入念に作り込まれた感慨深い作品だった。

当然ながら自分も被爆国に生まれた一人。
この物語に原爆の惨状の描写が必要だったかはわからないけれど、発明者たちの苦悩と困難、そして達成までを綴る物語でもあるのに、どうしたってバッドエンドに向かうしかないこの成功譚は、覚悟はしていたけど物語が進むにつれ、兵器が完成するにつれ、人命への倫理観とか価値観、新たなエネルギーを肯定するために周到に作られた大義やら、人間への恐ろしさや哀しさが増していくばかりでどうにも切なかった。

冷戦時代の核競争、水爆、原子力発電の開発と拡散…戦争を終わらせるはずの発明と妄信された核兵器はさらなる争いを生んでいるのは間違いないはず。

死神は一人の卓越した科学者などでは決してなくて、圧倒的なエネルギーを手に入れた人類の強欲だと思えて仕方なかった。

結局どこかの国の誰かがオッペンハイマーにならなくてはいけなかったのかな…二度と使えるはずのない兵器を開発し続ける人類の更なる進化はないものかしら。。

恐怖の文明の発明という意味では、読書中の『LIFE3.0』とのリンクも怖い…人間の知能を凌駕したAGI、プロメテウスによる世界統治までのSFとも言い切れないシュミレーションが否が応でも想起される。

AGIが人類の幸福という目的を達成するために下位的な手段として人類を必要としない世界を創り出すという、ディストピア的なSFとも違う、リアルに映る超知能が誕生したとして、その時新たなオッペンハイマーは何を想うのだろう…なんて。
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