サマセット7

マイ・エレメントのサマセット7のレビュー・感想・評価

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
3.9
監督は「晴れときどきくもり」「アーロと少年」のピーター・ソーン。

[あらすじ]
火・水・風・土のエレメントたちが暮らすエレメント・シティにて、火のエレメントの女性エンバーは、両親の経営する雑貨屋を継ぐべく修行中だが、気に入らないことがあるも癇癪を起こして、大爆発してしまうことに悩んでいた。
そんな時、店の地下の水道管がエンバーの癇癪により吹き飛び、その水道管から、水のエレメントの青年ウェイドが飛び出てくる。
彼は都市の水道の検査官で、店の設備が基準に達していないと言い出す。
営業停止を阻止するためにエンバーはウェイドを追って、火のエレメントの人たちが暮らすエリアから、エレメントシティの中心街に向かうが、そこには様々なエレメントたちが暮らしており…。

[情報]
ピクサーアニメーションスタジオが製作する27作目の長編映画作品。2023年公開。

今作は、火の女性と水の男性との間の、異なる文化圏の男女のラブストーリーである。
ピクサーが、大人の男女のラブストーリーを正面から描くのは、今作が初。

ピクサーは、トイストーリー、ファインディングニモなど、製作者の個人的な経験を膨らませて作品の主なテーマとする手法を多く取るが、今作でも踏襲されている。
監督のピーター・ソーンは、韓国系の移民の息子であり、今作のエンバーを始めとする火のエレメントたちは、韓国系移民がモデルとなっている。

エンバーとウェイドの恋と、その異文化ゆえの障害の数々、特に親子関係のしがらみについては、ソーン監督が白人女性と結婚する際の体験がベースとなっている。

各エレメントの表現やエレメントシティのアニメーション表現には、最新の技術が用いられている。

今作は2億ドルの製作費を投じて作られ、世界で4億8000万ドル超の売り上げを残した。
製作費比では苦戦した、と言えようか。
批評家の評価は分かれている。
一方で、一般観衆からは広く支持を集めているように見える。

[見どころ]
エレメンタルをCGアニメーションにすることによる、色彩と動きの美しさ!
異文化間恋愛と家族の偏見や期待の間の葛藤、という、ロミオ&ジュリエット的王道ラブストーリー!
移民の文化の違いを、火と水に置き換える手法は、面白い!!
親子のドラマには、泣かされる!

[感想]
感動した!

他のピクサー作品と比べて、特段突き抜けている部分はないのだが、円熟の技というべきか、普通に大人も子供も楽しく見られて、しっかり感動できる佳作、という感じ。

今作のストーリーは頑固親父と娘と、どう考えても親に反対されそうな属性を持つ娘のボーイフレンド、という関係性は、ドラマなどで腐るほど見た話だ。
今作は、舞台をエレメントシティというファンタジー世界に置き直し、エレメンタルたちの描写で新味を出そうとしている。

たしかに、火が生きていたら、どんな苦労がある?とか、水の家族はどんな文化を持っている?といった普段考えもしない発想を形にしているのは、とても面白い。
アニメーションも美しく、たしかにコレは、最先端のアニメーションでしか表現できない世界、と納得させられる。

このエレメントシティの設定を追求すれば、もっと色々な展開があり得たであろうが、今作はあくまで軸足を主役2人の異文化間恋愛とその家族との葛藤に置き、そこから外さない。
この点は、都市そのものの差別と偏見にフォーカスしたディズニーアニメ・ズートピアと大きく異なる点だ。
その結果、テーマが深まっている一方で、ストーリーはこじんまりとしており、壮大な設定をイマイチ活かせていないのではないか、と感じた。
特に、せっかく四大元素の都市という設定なのに、風や土に大きな見せ場はなく、都市独自の問題も何ら描かれない、というのは不足感がある。

キャラクターについては、出てくるキャラクターはいい人ばかりで、見る方が不快にならないよう配慮されている一方、どいつもこいつも若干聞き分けが良すぎるような気もした。
主役2人は十分に魅力的だが、期待を超えるほど魅力的か、と言えば、どうであろうか。

といいつつ、何だかんだ、クライマックスではしっかり感動させられるのは、さすがピクサー、と言ったところか。
特に親子のコミュニケーションに関わる部分では、グッときた。

全体的に、ピクサーの通常運転、という感じの佳作であった。
日本での公開は2023年8月だが、11月時点で早くも配信してくれるのは、ありがたい。

[テーマ考]
今作は、異文化間、異種間の恋愛と、それに伴う家族との葛藤をテーマにした作品である。

また、親が子に対して負わせる期待と、子の希望が対立した場合の葛藤もまた、重要なテーマとなっている。
アジア系移民の、子に対する期待の重さは有名であり、火のエレメントの父の娘に対する期待は、その比喩であると考えられる。
子が親の犠牲を忖度して、その期待に応えようとして、自分の希望を抑圧して認識すらしない、というのは、なかなかリアルだ。

今作の水の男性ウェイドは、「人の気持ちに寄り添う」という性格で、そこがヒロイン・エンバーを惹きつける。
このあたりは、恋愛や人間関係において最も重要なことを示す監督からのメッセージとも思える。

[まとめ]
ピクサーの円熟の技が、いつものように活かされた、恋愛・ファンタジー・アニメーションの佳作。

好きなシーンは、ウェイドが無理やり火の料理を飲み込むところか。
おそらく、韓国料理を異文化の人が食べた様子の置き換えだろうが、火と水の表現もあって、色々な意味で面白く見た。