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最後まで行くのsanbonのレビュー・感想・評価

最後まで行く(2023年製作の映画)
3.8
やる事全部大胆過ぎ。

今作は、車で人を跳ねてしまった警察官がそれを隠蔽した事で、予想だにしない事態に発展していく様を描いた物語となっており、無策のまま極限まで追い詰められていく緊迫感が見どころの作品となっている。

その為、話の展開としては先を読ませない作りを終始貫いており、疾走感はそのままにラストまで駆け抜けて行くのが最大の魅力ともなっているのだが、それを前提としたうえで、起きる全ての事柄がいちいちやり過ぎな"韓国原作"らしい過剰演出が満載な為、それが半ば強引に"テンポ重視"で見過ごされていく度に、そうはならんやろ!とツッコミを入れざるを得ない状態が正直ずっと続いてく。

そもそも、主人公である「工藤」は悪名高いが故に検問でも足止めされるくらい同僚からも目の敵にされてるのに、フロントガラスにヒビが入った整備不良の車の中から本人ですら聞き覚えの無い着信音が鳴り響いているという、どこをどう見ても不可解極まりない状況をスルー出来てしまう時点でおかしい。

着信音さえ鳴らなければ、まあ場合によっては分からなくもないが、これも要素を重ねがけした過剰演出が原因で、信憑性を欠く場面となっていた。

それこそ、工藤を止めた同僚警官は確実に工藤を敵視していた訳だから、あの場は監察官の登場で一時凌ぎ出来たかもしれないが、その状況がその後どこにも報告に上がらないのはやはり引っかかる。

葬儀屋でのくだりも、60kgほどはあるであろう死体をどうやったらダクトの中まで持ち上げて移動させられたんだとか、物音の問題だって引きずる際の音だけが警備員に気付かれていたが、絶対にもっととんでもない音が引き上げたりする際鳴ってた筈だし、埃まみれになっていた筈の身なりもいつの間にか全ての汚れがどこかに消えているし、何より遺体を扱っている場所であれだけ挙動不審な人間がいたら、絶対に怪しいし怖いから誰しもがスルーというのは絶対におかしい。

このように展開は基本粗めとしか言いようがなく、物語の進行上ここでバレたら終わっちゃうからバレなかった事にしましたというような、正にご都主義を勢い任せに扱う展開がかなり多く、ここをノイズに感じる人は結構多いと思う。

だって、塩ビシートとロープでぐるぐる巻きにされた死体の衣服からケータイを取り出そうと思ったら、普通は縛ってあるロープを解いて、巻かれたシートを広げてやらないと絶対に取り出せない筈なのに、ケータイ鳴りました→人が近付いてます→工藤慌てて死体に手を伸ばします→扉が開きました→着信音も鳴り止んでてなにもなかった素振りで工藤が応対しますといった、場面転換の切り返しのみで事もなく済ませてしまうのは些か力業が過ぎる。

この場面でも、またまた着信音が無駄に事態の悪化を招こうと挿し込まれているせいで、観ているこちらも過剰にツッコミどころと捉えてしまうのだ。

まあ、作り手側もそんな事分かりきったうえで、それを誤魔化す目的もありコメディ調という演出を施しているのは分かるのだが、それでも雑多感はどうしても残ってしまう。

ただ「岡田准一」の演技力は本当に素晴らしい。

あの息遣いは、マジでヤバいときの呼吸そのものだった。

多分皆も人生で一度や二度はあるだろう、後ろめたい、バレたらヤバいのが見つかりそうになった時に出る、あのどうにも止められない過呼吸感は中々のものだ。

そして、あの極限の精神状態になった時に出る笑み。

今作は、笑えない状況になる度に不自然な笑顔のシーンが挿し込まれるのだが、それが非常に印象深く狂気が一層深まっていくのが一目でわかる名演出となっているのだが、特にラストの「綾野剛」の笑顔はめっちゃくちゃに気持ち悪くて不気味で、あれは結構トラウマレベルで最高だった。

タイトルである「最後まで行く」もラストをああする事で、最後とは=死であり、どちらかが死ぬまで終われないデスレースが始まったのだという絶望と喪失と虚無感を巧みに植え付けていた。

それこそ、その直前にちょっぴり救いがあるような終わらせ方をするのかなと思わせて気が緩んだところでズドンである。

そういった形で、勢い任せでもジェットコースター感を最後まで貫いたのは偉いと思う。

それにしても、綾野剛演じる「矢崎」があまりに不死身過ぎて、そこはだいぶ引く。

爆発に巻き込まれたんなら、せめて見かけだけでもどこかしらぐちゃぐちゃになってて欲しかった。

それと、ああも終始行き当たりばったりだったのに、真の黒幕は何処に勝算があったのかは正直不思議でならない。
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