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べイビーわるきゅーれのsanbonのレビュー・感想・評価

べイビーわるきゅーれ(2021年製作の映画)
3.8
日本人の感性でしか作り得ない「ナンセンス・アクションコメディ」

今作は、いわゆる"日常系"を素体に、"美少女"が"殺し屋"を生業にしつつも、表社会での生活に四苦八苦する様を緩めに描いた半コメディ映画なのだが、これと近い作品でいえば「ザ・ファブル」が真っ先に思い浮かぶ。

高校卒業を機に、組織からの生活に関わるサポートが打ち切られ、殺ししかしてこなかった主人公が社会での自給自足を強いられる設定なんかもどこか被るし、殺ししかしてこなかったから常識やコミュニケーション能力がところどころ抜け落ちてるキャラ設定なんかも近いものがある。

ただ一点、大きく違うのは主人公が可愛い女の子であるという点にある。

この違いは、瑣末なようでいて作品の色はここで明確に差別化がされており、つい最近まで学生であったという事もあるのだろうが、プロの殺し屋と言ってもこちらはどこか計画性に粗があったり、危なっかしさを含んでいたりするから、観ていてもヒヤヒヤさせられる展開が続く。

要するに、伝説の殺し屋として無双するファブルとは違い、こちらは殺し屋としての危うさを前面に表現している。

それが、見た目が可愛い女の子であれば、尚の事感じる要素となっていた。

ただ、日常を描いたパートに関しては正直淡々とし過ぎていて少し退屈。

尚且つ、片割れは陰キャコミュ障という設定から、ボソボソと中々にどうでもいい事に対してグダグダとやっているもんだから、展開は非常に乏しいと言わざるを得なかった。

どうせなら、もっと笑いに寄せるなりすれば良かったものだが、そういう観点からではあまり脚本的なカロリーの高さは感じなかった。

だが、アクションに関しては本当に驚いた。

「まひろ」を演じた「伊澤彩織」は、元々スタントを生業としていたという事だが、今までに見た事のないレベルで超絶ハイスピードな激しい殺陣を見事に演じ切っていた。

あのラストのアクションを拝むだけでも、今作を鑑賞する意義は十分に感じられるだろう。

そして、ここでも女性であるという特徴を逆手にとった"視覚的に危機感を覚える"演出も上手いと感じたし、もしあれが男同士の格闘なら同じアクションでも感じ方は全く異なっていたに違いない。

そして、このような「ピカレスク」を彷彿とさせる作品は世界中にあるものの、そこに女の子の日常を織り交ぜて描いたような作品が作れるのは、世界広しと言えど日本だけだろう。

今作が世界に向けて発信される事は無いのだろうが「コミコン」とかで流せばバズりそうな気がしないでもない。
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