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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のsanbonのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.8
「墓場鬼太郎」とは、あくまで別軸の話。

今作は「目玉親父」が目玉になるきっかけを描いた墓場鬼太郎の前日譚としての体裁をとっている反面、シリーズの垣根としては「ゲゲゲの鬼太郎」第6期のカテゴリーとしているようで、冒頭にはほんの顔見せ程度に「鬼太郎」と「猫娘」も登場している。

ちなみに、僕の鬼太郎歴は4期までとなっており、5期から既にその片鱗はあったものの、6期からは猫娘が異様なまでの美少女と化したせいで完全に見る気が失せた身としては、今作のキャラデザはあまり好意的には受け入れられないところがある。

"女子人気"の「水木しげる」作品ってなんだよってのがどうしても違和感でしかないのだ。

子供をターゲットとするならば、元のデザインを大幅に改変させてまで美男美女を登場させる必要などどこにもなく、なんなら元の水木絵のまんまのほうが子供にとっては需要がある筈なのに、わざわざそのようにした理由を敢えて言葉を選ばず勘案するとぶっちゃけ"気持ちが悪い"。

元より、美少女ばかりが出てくるコンテンツが大嫌いな僕だから思う事なのだろうが、根本がそういった毛色の作品ではないものに対してまで、その路線を強いなければ集客が見込めないこのご時世はどう考えても狂ってる。

確かに、如何なる往年の作品であっても、その時代に則したデザインのアップデートというのは作品が続く限り大なり小なりはされていくものだが、この猫娘に関してはもはや別人レベルで原型を留めておらず、それを"誰に媚びて行ったのか"を考えると劇中に登場するどんな妖怪よりもおぞましく感じてしまう。

そして、本編を観た限り今作がここまでの人気を博している理由は、間違いなく内容や展開の秀逸さよりも、この6期猫娘が内包するキャラデザの系譜が根幹にあるからなのだろう事が推察出来る。

要するに「ゲゲ郎」と「水木」のカッコ良さに"萌える"のが最大のヒットの理由でしかないという感想だ。

ストーリーも、ミステリ色を強めている割には、終盤は霊的なスピリチュアル路線の色も濃く、リアリティとファンタジー的なおどろおどろしさのギャップには少し馴染めないような感覚を覚えるし、何よりその超常的なファクターが説明を端折っていて分かり難いところがあったりした為、作品としてのトーンが暗い分現実と非現実のバランスがより浮き彫りになり、その違和感に喉に小骨が刺さったような居心地の悪さがあった。

また、最終盤で墓場鬼太郎の"ような展開"へと物語を繋いでいるのだが、それが結構力業というか、細かいところがちょっと辻褄を合わせるには苦しい展開を今作は描いているし、今作を観た後では墓場鬼太郎での水木の結末にはいたたまれなさが生じてしまう為、僕個人としては今作はあくまでゲゲゲの鬼太郎の世界線での誕生秘話だと思う事にした。

まあ、それ以外は戦後間もない時代背景ゆえのブレーキの緩んだ倫理観を上手く劇中に絡められていたり、善良そうなキャラにも容赦のない結末を用意していたりと、作品の空気感的には硬派で重苦しい感じは好みではあったが、特別に面白かったかと問われると決して前のめりには観ていなかったなという印象。

申し訳ないが、つまらないとは決してならないが今作ならではというような希少性は特段見出せなかったという評価である。
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