開明獣

君たちはどう生きるかの開明獣のレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0
ネタバレになる可能性あるので、未見の方は侵入禁止で⛔️

まず最初に。鈴木プロデューサーが公開前のインタビューで既に答えてますが、これは吉野源三郎と山本有三の「君たちはどう生きるか」が原作ではありません。エンドロールクレジットに明記されてますが、宮崎駿の原作です。

SNS全盛のいま、すぐにネタバレサイトや考察サイトに頼って自分で考えることをしない人たちが本作に対して言う"分からない"は、"分かろうとしない"なのだと思う。

母を亡くした少年が疎開先で新しい母親を紹介され、しかもじきに弟か妹が出来ると知らされ、葛藤する。少年は、自宅近くにある不思議な塔に赴くことになる。その塔では、別々の時間軸が同時に存在することが出来る、少年が存在する現実世界とは別の世界だった。少年はそこで選択を迫られる。その別の世界で現実とは訣別して王となるか、現実世界に戻るか。

ある一人の少年の成長をファンタジックに描いた傑作。宮崎駿はいつもと変わらぬ優しい眼差しで世界を観ている。

この世界を動かしているのは誰だろう?政治家?実業家??いや、そうじゃない。それはきっと宮崎駿のようなクリエイター達がつくりだした作品と、それを受け止める市井の人たちなんだと思う。

時折、これに満点つけなかったから、何につけるの?と思わせてくれる作品に出逢うことがある。それはかけがえのない喜びだ。そして、本作はそんな作品の一つとなった。

宮崎駿以前と以降では、日本の、いや世界のアニメーションが違う。日本の原風景を慈しみ、しかし現代に在ることを強く意識しているからこそ、唯一無二の普遍性を持つ。

この人と同時代に生まれたことを誇りに思う。同じ日本人であることを誇りに思う。でも宮崎駿は、日本人ではあるが、それにもまして世界人である。時代、国籍、年齢、性別に関係なく愛される稀代の映像作家を言祝ぎたい。

何も足さなくていい。引かなくていい。語らなくていい。でも観たことに関して考えなくてはいけないと思わせる。まさに宮崎駿らしい作品だった。
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