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君たちはどう生きるかのstのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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一見、母を失った少年のエディプス成長譚かと思いきや、「君生き」は"地獄"を生きる現代人への聖典『アヴェスター』だったのか。。。(以下、甘甘な独自解釈です。)

高台から火事を眺めるシーンから入るのが『怪物』と被ってて興味深い。『怪物』は真実/真理/真相を捉えることの難しさを描いたものだとすると、本作は「真実を求めようが求めまいが、地獄は地獄」と言っているような気がする。筋は現実→裏世界→現実という通過儀礼モデル。"天国"は裏世界の神の頭の中だけであり、現実は悪(悪意)あふれる"地獄"のようなもの。

善悪二元論・火(炎)・世界創造といったモチーフ群は、ゾロアスター教を思わせる。というか絶対下地にはしているはず。アフラ・マズダは真理を求むる善神と言われるが、けだし本作では善も真理も本意ではなかろう。墓前で「我を学ぶ者は死す」と書かれるように、真理の追求は即ち死。その言葉通りに、創造神=大叔父は真実を求めすぎたことにより裏世界の限界を迎える。

対して、眞人は"悪意"ある者(悪神アンラ・マンユ)。「鳥」に囲まれ元の世界に舞い戻る。ゾロアスター教は鳥葬で、石板の上に置かれた死体を啄むとされる。つまり、眞人は死者(キミコの言う「死の匂い」もそうだし、頭に傷をつけたのは石=墓石)であり、死と悪意にまみれるこの世界は地獄。我々は死と悪意、そして鳥の糞にまみれながらもこの世を生きるしかない。宮崎駿式の現代版「書を捨てよ、街へ出よう」。ラストは"戦火"(そして、戦後の勃興と凋落…)の待つ東京に戻ると言うのがまた示唆的。火=母という意味では"拝火"的とも母胎回帰的なラストとも取れるけど。いずれにせよ情報量とメタファー多すぎて1回では読みきれない… 何度も観て語りたい映画。
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