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君たちはどう生きるかのAyaxのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.8
メインのビジュアル(何か青い鳥)とタイトルと監督と作画監督と何人かの声優と米津玄師しかわかってない状態で鑑賞。
宮崎駿作品の中では外国っぽい(日本じゃない)設定のものがどちらかと言うと好きなので、いつの時代のいつの話なんだろうと思ってたら、冒頭からカーン!カーンカーン!という音とサイレンと燃えている様子と浴衣を着てる少年で、あぁ!そっちかー!(あんま好きじゃない方〜)ってなった。正直。
なんだけど、寝巻きのまま走って家を出ていこうとした主人公がわざわざ着替えに戻ったり(時代背景やキャラクターの性格を描写するために話を進める上で必要ないものをわざわざ描く)、その後の前のめりで走るのを見て、スタジオジブリだ!宮崎駿だ!と思って、気付いたら泣いていた。うわーん。チョロい。子供の時はもちろん、大人になってからも観てたし、宮崎駿名義で出てる本を調べて買ったり(『シュナの旅』)、男鹿和雄展やアニメージュ展にも行ったり。「風立ちぬ」や「崖の上のポニョ」がピンとこず、ファンの看板下ろしかかってたけど、私はやっぱり宮崎駿作品結構好きなんだなあ。次のシーンに行っても涙が止まらず、ちょっとヤバい奴だったかもしれない。
次に泣いてしまったのは、主人公が石で自分の頭を殴ってからの一連のシーン。軍需で儲かってる父親が学校に車で乗りつけるとか言ってイキってるのが嫌だったのと、実の母親の死後すぐに別の女性と結婚して(お母さんのことはもういいのか?忘れたのか?)チュッチュしてるのも見ちゃって(気持ち悪い!不潔!)嫌だったんだろうなーと思って。でも言えないよねと思って泣いちゃった。
3回目はラスト(私すごい泣くじゃん)。メッセージが昔と変わってないな、一貫してるなと思ってちょっと感動して泣いた。私が宮崎駿作品で一番好きかもしれない台詞がナウシカの「その朝が来るなら私達はその朝に向かって生きよう、私達は血を吐きつつくり返しくり返しその朝をこえてとぶ鳥だ!!」というもので、今回も結局これじゃん!と。「On Your Mark」のインタビューでも宮崎駿が「結局、いつもそこから始まるしかない。メチャメチャな時代にも、いいことや、ドキドキすることはちゃんとある。ナウシカの、“我々は血を吐きながら、繰り返し繰り返し、その朝を越えて飛ぶ鳥”なのです。」と答えてたことがある。人間は愚かだし美しくないけど、闇があるから光り輝く。しんどくても汚い世界でもその中で希望を持って何とかやっていくのだという決意表明のような。というか宮崎駿自身がそういう心情で今まで生きてきたんだという話だと思った。
今回そもそもあまり期待してなくて、というかしないようにしてたんだけども、アクションぽいシーンもまあまああったし、途中からファンタジーの世界に行ったので、私が観たい宮崎駿作品に近かったと思う。
難解という人が多いと聞いて、ファンタジー世界のシーンやルールは初見ではよくわからないところもあるけど、話の大筋とメッセージはそんなに難解ではない気がした。
主人公の成長(新しいお母さんを受け入れる)の過程について。最初はお見舞いのときに自分が愛想悪くしてしまったせいで夏子さんが行方不明になったかもしれないという後ろめたさや申し訳なさから彼女を探しに行ったように見えた。産屋のシーンで夏子さんとお母さんが重なって今度こそ助けたいと思ったのでは。そもそも一回目も彼が助けられなかったと責任感じるようなことではなさそうだが。
大叔父も主人公も宮崎駿が投影されてると思う。大叔父の方は、大人としてこれまで世界が良くなるようにがんばってきたつもりだが、世界は悪くなる一方で崩れかけている、その状態で次の世代にバトンを渡さねばならぬという部分。主人公の方は、きれいな世界じゃなくても生きていくと心に決めて生きる(生きてきた)という部分。宮崎駿以外の周辺の人がキャラクターに投影されてるとか、宮崎駿のアニメーターとしての人生が重ねられていてその継承というようなレビューも見かけたけど、あまりピンとこずというか、私は特にそういう風には感じなかった。そういう要素を重ねてる可能性はあるけど、それが伝えたいことの本質ではない気がする。すごく個人的な話(母と自分の関係性とか自分自身)と世界規模の話(戦争)や地球規模の話(環境)をしてるように感じた。
持ち帰った石について。いろいろこねこね解釈してる人いるけど、シンプルに新しいお母さんを受け入れたけど、本当のお母さんのことも忘れないよという解釈が自分的には一番しっくりくるなー。
塔の中で自分が生まれる前のお母さんに出会って影響を与えて(火事で死ぬ運命だとしてもあなたのような子が生まれるなら生みたい)、そのお母さんが彼に影響を与えて(本の中に彼宛のメッセージを残して読ませる)、そして塔でお母さんに出会うという円環構造。「インターステラー」みたいと思った(どっちも一回しか観てないから全然違ったらごめんだけど)。
わらわらが食べられたり、燃やされたりするのは、赤ちゃんってみんなが無事に生まれるわけでなく、流産とか生まれる前に亡くなることもあるのでそういうイメージかなと思った(完全に想像)。わらべ(童)から来てるのかな。デザインがちょっとあざとくて、こだまの方がやや不気味で私は好き。
背景は「千と千尋の神隠し」や「もののけ姫」のときはもうちょっと写実的な雰囲気で、室内の家具とかの線もくっきりしてたイメージがあったけど、今回すごく水彩画っぽいぼんやりしたタッチだったなあ。エンドクレジットで男鹿和雄さんいた。夏子さんの上等な部屋という雰囲気の洋室が素敵だった。作画協力は、スタジオカラー、スタジオ地図、ufotableと錚々たる顔ぶれ。作画について、現実世界の婆さんの顔が大き過ぎてちょっとやり過ぎと思った。湯婆婆とか荒地の魔女とかがバランスがおかしいのはファンタジーの世界だから良いんだけど。
あいみょんの声はファンじゃないのでよく知らなかったけど、澄んだきれいな声で且つちょっと老けてる感じがジブリっぽい。島本須美さん的な。
エンドクレジットの文字が誰の字か気になって、字を書いたのが誰か集中して見てたので、ほとんど米津玄師の歌は入ってこなかった。結局わからず。フォント説もあるらしい。気になる。
タイトルが「○○の○○」でなかったり、気持ちよく空を飛ぶシーンがなかったり、おいしそうなものがあまり出てこなかったり、今までのスタジオジブリの成功パターンをあえて外してるようにも見えた。そういう意味でキャッチーじゃないと思う。受け身で楽しめる映画じゃない。久石譲の音楽もかなり控えめ。2回目観ることがあればもうちょっとちゃんと聴きたい。
ちなみに『君たちはどう生きるか』ともう一つの原作と言われている『失われたものたちの本』は未読。
何回も観たいと思わないし、すんごい良かったとも言えないけど、なんだかんだで十分楽しめた。IMAXじゃなくてもいいかな。設定資料とか出たら読みたい。宮崎駿の設定資料が大好物。
今回、崎を﨑に変えたのは、今までの作品みたいに自分が全カット描いてるわけじゃないから分けたかったのかなあ。
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