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君たちはどう生きるかのkamioriのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 思ったよりもファンタジーだったけど、メッセージは前作の「風立ちぬ」と通ずるところがあると思った。
 眞人は悪意のない世界の創造主になることができたにも関わらず、悪意のある不安定な世界で生きることを選んだ。ヒミも自分が死ぬ運命を知りながら、眞人を産む世界へと戻っていった。
 誰かの善悪ではなく、自分の意思で未来を決めるというスタンスは「風立ちぬ」の二郎や菜穂子と通ずるものがあると思った。

 もう一つは、フィクションと現実の関係性を描いた作品なのだと思った。
 下界で最初に降りた島には「我を學ぶものは死する」という警句が掲げられていた。「學ぶ」は「まねぶ」とも読めるそうので、意訳すると「他者の物語の受け売りしかできないものに未来はない」ということかもしれない。「學ぶ」が「まねぶ」だとすると、セキセイインコが悪の軍団として描かれているのも合点がいく。
 ただしフィクションそれ自体を否定しているというわけではない。
 眞人は下界では創造主の血をひく主人公であり、友達もできた。しかし彼はそこに残るという選択をしなかった。
 一方で彼は、下界から石をひそかに持ち帰る。また、2年後の荷造りのシーンで「君たちはどう生きるか」をバッグの中に入れている。
 フィクションは没入や逃避の道具ではなく、自身にとっての糧、あるいは問いであるというのが、作品に込められたメッセージかもしれない。

 たくさんのメタファーがあるように感じられたけど、うまく解釈できたものは少なかった。
 3日に1つ積み木を積んで世界を再構築したり、カタストロフで海が割れるのは聖書っぽいと思った。
 一方で産屋が禁忌とされるのは日本的な風習ぽい。
 ただ、夏子がインコに食われずに幽閉されている理由は、御産が穢れと捉えられているからなのか、逆に下界での御産が貴重とされるからなのかはよくわからない。

 そもそも下界で産むとはどういうことなんだろうか。わらわらは上の世界に行くことで生まれていく。ならば下界で生まれるということは、上の世界での生の否定(=生まれないということ)なんだろうか。夏子さんの背景は細かくは描かれないけれど、亡くなった姉の旦那と結婚して孕っている状態はかなりいびつだと思う。おまけに姉の実子からも否定されたとなれば、現実から逃げ出したくなるのも無理はない。
 久子やキリコが下界にいた時間があるのだとすれば、夏子もその世界の存在を知っていて、意図してそこに逃げ込んだ可能性もありそうですね。

 石の概念もよくわからない。冷静に考えると石だらけの物語である。眞人が頭をかち割ったのも石、叔父さんの積み木も石、叔父さんが契約したモノリスみたいなのも石、夏子さんの産屋も石、眞人が上の世界に持ち帰ったのも石。
 下界の石にはどうやら悪意があるらしい。モノリスが大元で、それを切り出した石には悪意があると考えるのが妥当だろうか。しかしモノリスと契約した叔父さんは眞人を望んでいるが、夏子さんの部屋の石は眞人を拒絶している。石とて一枚岩ではないのかもしれない(日本語)。
 もしかすると石は所有者の意思を反映しているのかもしれませんね。夏子さんの部屋の石は、夏子さんの意思を反映している。叔父さんが見つけた悪意のない石は、まだ誰の意思にも染まっていないか、もしくは純粋な心の持ち主が持っていた石なのか。いくら考えても答えがわかりません。

 青サギが、青サギでなければいけない理由もよくわからなかった。どこかの地域では特殊な意味を持っている鳥なんだろうか。
 というか、青サギだけ人モードと鳥モードを自在に使い分けられるのも何故なんだろう。それも石の力? あるいはゾオン系の能力者なのか...

 声優当てゲームはキムタクと柴咲コウさんしか正解できなかったです。ヒミのあいみょんは完全に予想になかった。ちょっとハスキーな声質は橋本環奈さんかと思ってました。さりげなく婆やたちのラインナップが豪華。

2023年26本目
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