Kinako

マダム・ウェブのKinakoのレビュー・感想・評価

マダム・ウェブ(2024年製作の映画)
3.9
 漆黒のクモ人間から狙われる三人の若きスパイダーウーマンの卵たち。彼女らを救済できるのは、突如として予知能力を手に入れた救急救命士・キャシーただ一人だった…!逃亡劇の行き着く先は…!?

 個人的に本作は、ミステリーというよりかは、マーベル版ターミネーターです。逃げる側(予知能力を持つ女性・キャシー)と追う側(蜘蛛の特殊能力と神経毒を持つエゼキエル)のパワーバランスが釣り合っておらず、能力を手に入れたばかりで見ず知らずの三人の娘を守るハメになった主人公が圧倒的に不利です。だからハラハラして面白い。

 それぞれ違った個性を持つ三人の娘とキャシーが次第に打ち解けていく事とキャシーが予知能力を開花していく過程がリンクしており、その二つがラストの感動的なメッセージへと集約される脚本は見事でした。主人公の能力はまだ不完全なので、救急救命士の知識とその場の閃きを駆使して何とかエゼキエルから逃げる展開に目が離せません。

 キャシーを演じるのは、妖艶さと少女の様な可憐で美しい魅力を併せ持つダコタ・ジョンソンという女優。劇中で彼女は、いたって普通のキャリアウーマンとして描かれてますが、実際にこんな人いたら、美人すぎて目立ちますよね。とにかく予知能力を手にした普通の女性がヒーローになっていく物語が『マダム・ウェブ』なのです。

 ただ、キャラクターの設定と構図が良かっただけに、もう少し過去や能力を掘り下げて描写してほしかった部分はあります。設定の出し惜しみは、シリーズ化するにあたって観客に続編を期待させる狙いなのかもしれないけど、物足りなく感じる方もいると思います。だけど私はキャラクターに愛着が湧いたので早く続編が観たいです。

 そしてキャシーの声優に抜擢された元AKB48の大島優子さんの演技も、声優発表当時はどんな感じになるんだろう?合ってるのかな?と思っていましたが、鑑賞してみると、なるほど、これはキャシーの声だなと感じました。

 この『マダム・ウェブ』は、スパイダーマンの関連キャラクターを主人公に据えた作品を作っていく「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」というプロジェクトの一環です。『ヴェノム』もその一つです。とはいえ、これはマダム・ウェブというヒーローが誕生する映画なので、本作から観ても全然問題ないです。

 一方で、スパイダーマンの映画を一度でも観た人なら思わず感心するサプライズが用意されています。SSU作品は一体どのスパイダーマン映画の世界なのか?という事がファンの間で議論されており、私もこの『マダム・ウェブ』で何かしらの情報が得られる筈だと予想していました。

 果たして本作で何かしらの情報が開示されるのか…?あるとしたら一体どんなものなのか…?ベースとなる主人公の物語以外に、こういったスパイダーマンと紐付けた考察が出来るのもSSU作品の魅力です。それはさておき、スパイダーマン関連の作品として本作を見たとき、非常に興味深いことに気付かされます。

 これまでにSONYは、サム・ライミ監督版、アメスパ、スパイダーバース、ディズニーと共有するMCU版といった様々なスパイダーマン作品を手掛けて来ました。『マダム・ウェブ』はそれに続く4つ目の新たなスパイディシリーズをSSUで誕生させた作品と認識して良いと思っています。

 今後のSSUはマダム・ウェブと三人のスパイダーウーマンを中心にシリーズ化していくかもしれません。本作のメインテーマも、どことなくサム・ライミ監督版のスパイダーマンの雰囲気を感じさせます。では『マダム・ウェブ』を初め、SSU作品は、どの過去シリーズのスパイダーマンの世界にも属さないのか?というと、それは本編を観てからのお楽しみです。

 興味深いことに、2021年に公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でマルチバースという概念が導入された事により、今、全てのスパイダーマン作品は互いに関連しており、いつでも共演できる体制が整っている状態になってます。

 つまり『マダム・ウェブ』に登場する蜘蛛から超能力を得たキャラクターたちは、我々がよく知るスパイダーマンのもう一つの姿といえます。与えられた能力をどう捉えるか、どう使うかによって人は善にも悪にも転び得る事を描いています。

 仮に他者に危害を与えなくても、現状を悲観し将来に希望を見出せなくなると、自分さえも殺し得る存在が人間。だからこそ、現状だけでなく未来に目を向けてどう捉えるか?という事をマダム・ウェブは不安を抱えながら生きる私たち現代人に伝えています。個人的にラストのキャシーのセリフには感動しました。
Kinako

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