Kinako

沈黙の艦隊のKinakoのレビュー・感想・評価

沈黙の艦隊(2023年製作の映画)
4.2
潜水艦の迫力と大沢たかおの演技に圧倒され、この映画を現代社会への警鐘として観なければならない世界情勢に怖さを感じた。『沈黙の艦隊』は、主人公の海江田と同様、揺るがぬ決意を持って製作されたに違いない。

日本初の原子力潜水艦の艦長となった海江田(大沢たかお)は、潜水艦に核ミサイルを密かに搭載し、海の彼方へと消えてしまいます。法の抑制の効かない核を持った潜水艦が自由に動いてるんですから、当然大問題へと発展します。

海江田の目的とは何なのか、潜水艦一つで如何にして国際社会と渡り合うのか、核を持った潜水艦に日本やアメリカはどう対応するのか、それらがしっかりとリアルに描かれており、気がついたら画面に釘付けとなっていました。

本作は『シン・ゴジラ』の様なシミュレーション要素のある映画です。舞台はおそらく現実の国際情勢や社会であり、そこへ一つフィクションを描く事で、現代ならどう対応するかを物語として観客に観せている作品です。

今回は核を搭載した潜水艦がフィクションの部分なので、政府やアメリカがどんな対応をするのかがリアルで興味深いです。また、それに対して海江田が潜水艦でどう対処するのかも注目です。巧みな心理戦が展開されます。

観客は海江田の目的が明かされた時、それは本当に正しい野望なのか?と考えると思います。世界では未だに核保有国があり、彼らと対等に渡り合う為、あるいは他国からの軍事進行の予防策として、日本も核武装するべきだという声もあります。

私は、例えそれで平和が保たれたとしても、それは仮の平和でしかないと思ってます。相手がライフルを装備しているから、念の為こちらもライフルを装備し、さぁこれで安心、ようやく対等として笑顔で話ができるぞ??理屈は解るが馬鹿気てます。

相手にライフルを置かせるには、どうすればいいか。私にはまだ答えを出せませんが、少なくとも、自分が相手と対等に話ができるか、その基準を相手に委ねてどうするんだ?ということです。

ライフルが無いから、敗戦国だから、対等に話ができないと勝手に自分で決めつけるのではなく、対等であるかどうかの基準は自分で決めるべきだと思います。勝手に作った評価基準で自分を卑下せず、相手を見下さず、無条件でお互いが対等であると、そう思える国際社会であってほしいと考えさせられました。

長くなりましたが、本作は国際社会の秩序の在り方について、様々な意見が飛び交う作品となっています。そして誰の意見が正しいのかを明確にはしていません。それが物語の質を高めている要因の一つだと思いました。今を生きる我々は、この映画に解釈を委ねられているのです。
Kinako

Kinako