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瞳をとじてのギルドのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.7
【ヤヌスが憑依した男、栄光の奇跡と交信する】
■あらすじ
映画『別れのまなざし』の撮影中に主演俳優フリオ・アレナスが失踪した。
当時、警察は近くの崖に靴が揃えられていたことから投身自殺だと断定するも、結局遺体は上がってこなかった。

それから22年、元映画監督でありフリオの親友でもあったミゲルはかつての人気俳優失踪事件の謎を追うTV番組から証言者として出演依頼を受ける。
取材協力するミゲルだったが次第にフリオと過ごした青春時代を、そして自らの半生を追想していく。そして番組終了後、一通の思わぬ情報が寄せられた。「海辺の施設でフリオによく似た男を知っている」——

■みどころ
大傑作!!
失踪した俳優の行方を追う話。あまりにも凄くて奇跡のような映画に辟易してました。
そのくらい魅力的な映画に出会えて心が躍りました。

映画は「別れのまなざし」の1シーンから始まる。
ローマ神話の守護神ヤヌスの偶像を映し、フリオが演じる男は「悲しみの王」の館に向かう。
人生観、悲しみの王の名付けの話をしたのちに王は上海へ失踪した娘を探してほしいという依頼を受ける。
フリオはその娘を探しに上海へ旅立つがフリオ自身が失踪し「別れのまなざし」自体が製作打ち切りになってしまった。

22年後、フリオの親友で映画監督だったミゲルはフリオの失踪事件の謎を追うTV番組から証言者としての出演を求められる。
その中でミゲルはフリオの行方を知るために、当時のフィルムを管理している編集者のマックス、フリオの親類であるアナにコンタクトを取った。
やがてTV番組CASOSが始まり、ミゲルはフリオそのものが生きる事に疲れを感じていた事を告げ、家に帰って執筆活動や漁をしているとある人間からフリオに似た人間がいるとの連絡を受ける。
ミゲルは夜行バスに乗ってフリオに似た男を探しに行くが…

本作は映画俳優の失踪を皮切りに失踪した俳優の抱えていた心情、疎外感、窮屈さを取り上げた作品になる。
窮屈であるが故に逃げ出したくなる気持ち、そこじゃないどこかへ旅立つ気持ち、俳優の”想い”をじっくりと描いていく。
そこに至るまでの絵作り・構図がとにかく素晴らしくて、どのショットも見惚れるほどに決まっていたと感じました。

そして心打たれる絵作りだけでなく、この映画は結びが本当に素晴らしかった!
ある出来事をきっかけにミゲルはフリオに似た男に映画を見せるサプライズを贈る。
それはミゲルが感じ取った悲しさ、なんとしても気付いてほしいというメッセージでもある。
そのサプライズをマックスに話すも「ドライヤー亡き後に奇跡は存在しないよ」と言うが本作のメッセージ、そしてメッセージを伝える途轍もない強度がここに詰まっていて度肝を抜かれました。

フリオに似た男の前にミゲルは創作・過去の栄光には当時の感情を揺さぶる底力がある事を示すのだ。

「瞳を閉じて」という映画で映画を観る事は
(1)ジュゼッペ・トルナトーレ「ニュー・シネマ・パラダイス」で受けた映画と映画館が持つノスタルジーさを感じ取る事
(2)過去の自分自身と現在の自分自身と交信する事
になる。
空想を通じて過去の自分へ感情を介して繋げていく姿と至る過程にはカール・テオドア・ドライヤー「奇跡」のような熱さがあって感動しました。
ドライヤーの「奇跡」、トルナトーレの「ニュー・シネマ・パラダイス」の語り口を引用する形で本作は映画を介してヤヌスを現出し、フリオに似た男に「何か」を始めるきっかけを与えてくれた。

展開的にはタルコフスキー後期作の救済とも取れるし、そういった部分を映画を通じた栄光と凋落と再生で見事な映像・展開で魅せて心打たれました。
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