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アンダーカレントのkamioriのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーカレント(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 「人を理解するってどういうことなんですかね」という山﨑の語りがこだまし続けている。「ドライブ・マイ・カー」を彷彿とさせる、深い内省をいざなう物語。
 何も解決しないけれど、人生にはこういう作品を見る時間が必要だなと折に触れておもう。

 自身の内面について、他者に理解してもらえるのはほんの一部だけなんでしょうね。自分ですら、自分のことをよくわからないものだし。
 「ドライブ・マイ・カー」でも述べられていたけれど、他者は理解できないという前提に立つならば、他にできるのは、自分がその相手とどう関わりたいかを考えることしかないと思う。
 かなえは悟と別れる時、「思いっきり叩いていい?」と聞きながら、結局そうはせず、マフラーを渡して、彼の暮らしを思いやる言葉をかけた。
 悟という人間を信頼することは難しい。二人の会話の中でも、いくつの嘘があったのかわからない。
 それでもかなえは悟に対してやさしい言葉をかけた。このとき、そのやさしさが悟に届いたかどうかは問題ではないのだと思う。
 また、悟と別れたあと、かなえは実はどじょうが苦手であるという話を堀にする。
 重大な秘密を抱えてきた堀は、かなえの気さくな告白を受けて、秘密は誰かと分け合うことができるとわかったのだと思う。
 ひとはそれぞれの内側に深い海を持っていて、互いの海に潜りあいながら、ときどき何かを見つけてくる。コミュニケーションはそういうものなのかもしれない。

 真木さんの語りには情報量が多いと思う。言語的な意味の伝達と関係しない要素がたくさんあるというか。
 その情報量はときどきノイズになっていた気もするけれども、一方でその余剰が人間らしくもあって、愛おしく思える場面もあった。
 燃えた銭湯を眺めるシーンで、おじさんの帽子が飛ばされる映像があったけれど、そのような余剰が作品を身近なものにしてくれている気がする。今泉監督の作品では、いつも不合理な要素が大切にされていると思う。
 新さんの内省に沈む演技は作品にピッタリだった。瑛太さんは理解が難しい人間を演じるのがほんとうにうまい。リリーさんは相変わらずカッコいいなあ。囲碁柄のネクタイ欲しい。
 今泉監督、「窓辺にて」以降、深く沈んでいくような作品ばかり撮っている気がします。なにか思うところがあるんでしょうか。
 からかい上手の高木さんが控えてるから、あんまり関係ないかもしれないけど笑。

2023年32本目
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