このレビューはネタバレを含みます
「人を理解するってどういうことなんですかね」という山﨑の語りがこだまし続けている。「ドライブ・マイ・カー」を彷彿とさせる、深い内省をいざなう物語。
何も解決しないけれど、人生にはこういう作品を見る時間が必要だなと折に触れておもう。
自身の内面について、他者に理解してもらえるのはほんの一部だけなんでしょうね。自分ですら、自分のことをよくわからないものだし。
「ドライブ・マイ・カー」でも述べられていたけれど、他者は理解できないという前提に立つならば、他にできるのは、自分がその相手とどう関わりたいかを考えることしかないと思う。
かなえは悟と別れる時、「思いっきり叩いていい?」と聞きながら、結局そうはせず、マフラーを渡して、彼の暮らしを思いやる言葉をかけた。
悟という人間を信頼することは難しい。二人の会話の中でも、いくつの嘘があったのかわからない。
それでもかなえは悟に対してやさしい言葉をかけた。このとき、そのやさしさが悟に届いたかどうかは問題ではないのだと思う。
また、悟と別れたあと、かなえは実はどじょうが苦手であるという話を堀にする。
重大な秘密を抱えてきた堀は、かなえの気さくな告白を受けて、秘密は誰かと分け合うことができるとわかったのだと思う。
ひとはそれぞれの内側に深い海を持っていて、互いの海に潜りあいながら、ときどき何かを見つけてくる。コミュニケーションはそういうものなのかもしれない。
真木さんの語りには情報量が多いと思う。言語的な意味の伝達と関係しない要素がたくさんあるというか。
その情報量はときどきノイズになっていた気もするけれども、一方でその余剰が人間らしくもあって、愛おしく思える場面もあった。
燃えた銭湯を眺めるシーンで、おじさんの帽子が飛ばされる映像があったけれど、そのような余剰が作品を身近なものにしてくれている気がする。今泉監督の作品では、いつも不合理な要素が大切にされていると思う。
新さんの内省に沈む演技は作品にピッタリだった。瑛太さんは理解が難しい人間を演じるのがほんとうにうまい。リリーさんは相変わらずカッコいいなあ。囲碁柄のネクタイ欲しい。
今泉監督、「窓辺にて」以降、深く沈んでいくような作品ばかり撮っている気がします。なにか思うところがあるんでしょうか。
からかい上手の高木さんが控えてるから、あんまり関係ないかもしれないけど笑。
2023年32本目