おむぼ

バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版のおむぼのレビュー・感想・評価

4.5
 アメリカのデンバーからサンフランシスコまでの2100キロほど(Google調べ)を15時間という猛スピードで駆け抜けるアメリカン・ニューシネマのロードムービーだった。

 『イージー・ライダー』よりも愚直で孤独だ。
ずっと並走する仲間がいない分、ベトナム戦争帰りの他者に心を閉ざしてすべてが上手くいかない主人公の男の心を動かすものの本質は、虚ろな怒りを対処してくれる車のスピードがもたらす快楽への執着のみということが目立つ。

 その理解をすっ飛ばして公権力への反骨精神の共感を見出したマイノリティ側のメディア(黒人で盲目のラジオDJって属性が記号過ぎるけども情の深いやつ)がファンになって寄り添い、その存在と行動が広まり、格好良さやおもしろさも捉えられてさらにファンを生み出すような劇中の市民の構図はアツくて微笑ましくも悲しい。
配給元の文章に「アメリカン・ニューシネマとは一線を画した」とあったが、たしかに劇中の主人公のファンとなる市民はこの映画公開までのアメリカン・ニューシネマに影響された人々のメタファーでもあったと思う。

 主人公が他者に心を閉ざしているから、基本的に疾走感とスリルが自然と湧いているような劇映画だったが、終着点だけがドキュメントのような映し方だったこともやるせなさを強く感じさせた。

 また、その代わりに明るいカントリーなロックが劇伴としてよく流れ、たまにその歌詞が素直に主人公の要素を伝えてたりすることも良い。
特にエンドロールで明るいバラードで「Nobody Knows」と歌われ、感傷的に締められた印象だった。
みんなすぐに忘れる。
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