おむぼ

哀れなるものたちのおむぼのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
 冒険と実験で純粋な自由を掴み取る寓話のカルト映画。
劇中の舞台であるヴィクトリア朝末期の前衛芸術のアティチュード、ゴシックな美術、総天然色の書割の世界で描かれていた。
人間の成長の最もおいしいところを鰻登りに見られて、無知であることの美しさに執着する他人の愚かさから来る不条理全てを積極性でどーにかしていくのは、ずっとハイになれる。
最後の画なんか、本当に気持ち良いブラックコメディだった。

 序盤、それ以降もあるけれど、時折挟まった超広角レンズで撮られた映像の目まぐるしさは注意散漫で、特に煽り構図になると子どもの頃を思い出すような惹かれる画だった。
アヒル犬や鶏犬、豚鶏などキャッチーなアングラがそのへんをトコトコ歩いている様子が散りばめられているのも良い。

 カルト映画たるものだけど、反権威を説教臭くないように笑いに昇華することを徹底できているすばらしさがあった。
例えば、ベラがまぐわうシーンの全ては、ガキが遊びでやっているようなものだからそそらないと思えるのは完璧だと思った。
もし、そうでなかったらドン引き性教育親父なんかも全く笑えなくなってしまう。

 フランケンシュタイン博士のようなマッドサイエンティストが死を目前に良い父親になることにはおかしさと微笑ましさを感じたが、振り返ってみれば、それこそ人間に対する偏見に違いない。
人間ならば誰であろうと、親としての愛情は持って然るべきだった。
あと、博士とベラの関係性や出自は、ブラック・ジャックとピノコを思い出していた。

 悪意無き好奇心を受け入れてくれる人のおもしろい話に導かれ、薦められた本を読んで知識を得たなら他者の現実を見て対自して金を捨ててみる流れは、真の意味で「書を捨てよ街へ出よう」だ。

 踊りたいように踊る者に、体裁を繕いたがる者が無理に手を取って、前者の歪な動きに正確なリズムがノッて、破綻寸前の、目を引くエンタメとなる社交ダンスのシーンが最も好きだった。
フロントマンが圧倒的スターのバンドみたいだった。
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