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夜明けのすべてのhikarouchのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
タイトルの第一印象で、「夜明けのすべて」ってww となってしまい、あまりに厨二病くさくて敬遠してたけど、どんどん良い評判が入ってくるので調べてみたら「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督ではないか、と金曜の疲れ切った体と頭を引きずってレイトショーへ。

疲れた頭に、沁みた。。。

でもこの映画の「良さ」を言語化するのってなかなか難しい。それはこの映画自体が、言語の力ではない部分に中身の詰まっている作品だからだと思う。

余白の映画。画の余白や音の余白。これ以上でも以下でもない、ちょうど良い余白。余白によって生まれる考える時間、想像する余地、そして蘇る思い出。

役者陣の振る舞い、セリフ、醸し出す空気感が本当に自然で、みんな優しくて、心が洗われる。ていうか、上白石ちゃんの演技上手すぎるだろ。こんなすごい女優だったのか。(ただ、クライマックスのナレーションのところは、逆にプロ感ありすぎて、藤澤さんではなく、うわ、上白石さんや。。。となってしまった。)
音を使った演出も品が良くてとても効果的だった。この辺は、さすが三宅監督。

主人公の藤沢さんは、やたらとモノを買っては周りに渡したがる。ちょっと悲痛に見えるくらいのこの習慣は、彼女のコミュニケーションへの恐れや自信のなさを伺わせる。自分の存在では相手に価値をもたらせないから、モノで自分の価値を、存在しても良い理由を補おうとしているようにすら見える。
そして同じ「モノをあげる」という行動が、後半で別の人物によって全く違った意味を持つシーンで唸った。

PMSやパニック障害という、我々にとって身近な心や頭の不調をここまで正面から描いた作品はなかったのではないだろうか。彼らほど大変ではなかったが、自分も一時期頭と心が不調に陥っていたときのことを色々と思い出した。「土日休んじゃうと月曜めっちゃしんどいんですよね」ってめちゃくちゃ分かるわ。

凡百の映画であればそのまま恋愛に発展して、でも結局色々あって離れてという流れに行きそうなところ、この映画はその匂わせすらしない。二人で家路を歩いているときに、一人が忘れ物に気づいて引き返す。「じゃ、また明日」と行って別れてお互いに振り返りもしない。清々しいほどに。

体調を崩したときに、理解のある働き口を見つけてくれて、定期的にテレビ会議で様子を見てくれて、復帰に向けて調整してると嘘ついてくれて、正月に外に連れ出してくれておせち料理の残りをおすそ分けしてくれて、本人の回復している様子を見て泣いてくれる元上司。あんな良い人いるかね。「いる?いない?どっち?」と真犯人フラグ視聴者としては聞きたくなる。いてくれ。

「髪切る映画は良い映画」の法則って、あるかもね。
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