hikarouch

アメリカン・フィクションのhikarouchのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.8
思った以上に軽妙で、非常に見やすい。

【黒人文化】を過剰に商品化して消費するエンタメ業界に対する強烈な揶揄がかまされている。ただそれをコメディとして描いているので、声出して笑っちゃうし、楽しく見れた。
白人が「そろそろ黒人の過酷な人生にも目を向けないと」って説教を黒人の作家たちに対してするのが、白人の薄っぺらなインテリ層を心の底からめちゃくちゃバカにしてて可笑しい。そしてこういうくだりをしつこいほどに繰り返す。

やっとこういう作品が出てきたかというか、ある意味で必然的に出てきた映画のような気がする。もちろん、だからといって「貧困で厳しい暮らしを強いられている人たちがいるなんて嘘っぱちだ!」ということではなく。そういう人たちはいるが、そうではない人たちが知ったような顔でその人達の物語を勝手に語ったり、【黒人はみんな】そういう暮らしをしているんだとやたらと主語を大きくしたり偏らせたり。そういうことに対して、ブスっと釘をさしているんだよね。「ごもっとも」としか言いようがない。

市場に求められるものを書くのか、自らが語りたいことを語るのかというクリエイター側の葛藤とともに、その受け手としてこうした作品をどのように受け止めて消費するのか、ということも考えさせられる。
結末を受け取り手に任せようとするモンクに対して、白黒つけろと要求するハリウッドの映画プロデューサーという構図も、作り手の怨恨がこもっていてよかった。

モンクたちの父親がなぜ自死を選んだのかは、最後まで語られなかったしね。そういう余白は物語にも、人生にも必要だと思う。余白は無ではない。余白も語るのだよ。

音楽も良かったね。

兄弟間で親から受けた愛の大きさが違うことによるギクシャクとか、ある日突然母親がアルツハイマーになったらとか、まさに僕らの世代が直面しうる話が実は色々と盛り込まれていて、自分ならどうするだろうとか、自分にもこういうことは起きるのかも、と自分ゴトとして見れたので、アラフォー以上世代の現実を直視できる方には特にオススメです。

こういう映画をこそ劇場で見たい。みんなでゲラゲラ笑ったり、シーンと静まり返ったりしたい。さらに願わくば、黒人や白人のみなさんと一緒に。
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