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雪山の絆のhikarouchのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
4.5
凄まじい話だ。凄まじい映画だ。ちょっとこれは、圧倒的だった。個人的には、ここ最近みた映画の中でも随一の破壊力だった。

とにかく観賞中ずっとしんどくて、途中で何度再生を止めようと思ったか分からない。でも、これは途中で止めたら二度と再開できなくなるヤツだと分かっていたので、腹を括って一気に最後まで見た。そして、そうして良かったと心から思える。

人間の尊厳。命と平穏な暮らしの尊さ。そしてそれらは決して当たり前にあるものではないということを嫌と言うほどに思い出させられる。今この自分の命を、暮らしを、大切に生きていかなければと思うし、まわりの人達との時間を慈しみ、彼らに対しても誠実であらねばと思う。

登山や雪山の専門的な知識を持たず、もちろんまともな装備も全く無い中で、これだけの苛烈な日々を、おそらくはラグビーで培った体力や根性、キリスト教に根ざした道徳心や教養によって、誇りを保ち続けるだけでなく、アンデスの雪山をいくつも踏破して生還を果たしてしまうの、本当に凄まじすぎる。
(自分も雪山で新雪に体半分埋まったりした経験もあるから、雪から這い出すことがいかに大変で体力を奪われるものか、よく分かる。)

自分だったら、もっとずっと早くに諦めるか、なりふり構わず利己心に走っていたかもしれない。

人間の儚さと、人間の強さ、どちらも強く印象に残る作品だった。

俳優陣の演技も、メイクや体作りも、大自然を壮大に捉えた撮影も、全てに凄みを感じた。圧倒的なスケールの自然には、美しさより、畏怖の念を覚えた。

Netflixで公開されている本作のメイキングドキュメンタリー「雪山の絆 僕らは何者だったのか」を見ると、傑作が生まれるべくして生まれたというのが良く分かって良かった。本作のオーディション合格を知らされて飛び上がって喜ぶ俳優たち。これだけの前向きなモチベーションと熱意があったからこそ、これだけの作品に結実したんだな。

ちなみに、雪山の「絆」は原題の「sociedad」からは結構ニュアンスの異なる言葉だと思う。どっちかというと、事故の生存者で形成された「社会」であり、人間が集まった時に生まれる連帯や組織的な作用のことを言ってるんじゃないかな。「絆」という言葉から想起する、感動の友情物語みたいな部分は本作の主題ではないよね。
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