Kuuta

ツィゴイネルワイゼン 4K デジタル完全修復版のKuutaのレビュー・感想・評価

3.9
幽霊の声を聞こうと、死に取り憑かれた中砂(原田芳雄)に対して、冒頭で盲目の旅芸人を見ている主人公青地(藤田敏八)は、社会の側に生きている。ヤバそうな場面では毎回律儀に引き返す。語り部である彼の視点がしっかりしているので、夢に迷い込む不思議な映画でありながらどうでも良くならない。反転を繰り返して難を逃れた末に待つオチも綺麗。

ストーリーを厳密に解釈する映画ではないと思うので、良かった場面をいくつか。

・こんにゃくを静かにちぎる園(大谷直子)→帰り際に見たらまだちぎっていて山積みに→こんにゃくを部屋にぶち撒ける夢へ。青地目線で段階を踏んで飛躍するダイナミズムが楽しい。
・園と青地が玄関の小さい扉越しに話していると、玄関の壁?が丸ごと横にぐわーっと開く。何事もなかったように会話が続き、またすぐに戻る。役者の体は動いていないのに、扉の中で身を寄せる青地夫婦とは対照的な往来を作っている。
・園に連れられて行く寺の青みがかった薄暗さ。自然光なのかな
・死者と同化した大谷直子(小稲であり園であり中砂でもある)が同じ画角で何度も家を訪れるくだりは怪談感マックス

三角関係が入れ替わり、役柄が二重三重に重なる。食事や「切通」を始めとする、物体が何かを通り抜ける描写。生と死の対比を打ち崩すように、和洋入り混じった大正時代風の洋館と日本家屋を見せる。血に染まりながら散る桜吹雪と赤い骨などモチーフは面白いのだが、映像や音の演出はちょっと単調に見える場面もあり…。横移動のスローモーションは作為が出過ぎていてイマイチ。食べ物がずっと美味そうな映画で、昼ごはんは蕎麦にしました。
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