Kuuta

落下の解剖学のKuutaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.2
ノレなかった!いろいろ見落としてそうなので皆さんの感想読みます…。

夫を殺す動機がある=有罪に近づくという前提が理解できなかった。フランスの裁判ってあんな感じなのだろうか。「見えなかった息子が物語を創作する」オチは理解しつつも、そもそも物証がないんだし…。彼の障害の程度をあえて曖昧に描いている以上、結論を示すニュース映像がよく見えない、で終わっても良かったのでは。

・今作のカメラはドラマを描く上で機能しているだろうか?切り取られた目線を強調する手ブレの意図は分かるが、過剰なパンやズームが、例えば冒頭の事件自体を作為的で、嘘くさいものに見せてしまっている。

息子にとって父の死や、屋根裏の窓はトラウマ級の記憶のはずだ。証言台に立つ直前、彼は初めて窓際に向かうものの、あの場面はもっと禍々しく、恐ろしいものになっていい。冒頭の死からして「切り取られている」から、真実が分からないのに父の死を物語化する、彼の底なしのキツさはショットから伝わってこない。
(中盤辺りにピアノを弾く彼の表情が影で真っ黒になるシーンがある。あそこが今作の肝だろう、というか息子視点で描いた方が良かった気がしてならない)

・落下するボール、木の棒を拾ってくる犬は家族を結ぶ唯一の存在であり、ラストショットにも繋がる。犬目線の低いカメラが室内に入り、生前の父の写真を見つめるまでの長回しは魅力的に感じたが、「犬が鍵を握っている」ネタバレにしては早すぎないか?とも思った。

・パートナーへの想いは白黒割り切れない「カオス」であり、その一つ一つを無理やり言語化する裁判がクソを塗り合う全面戦争と化すことは、過去の映画が何度も描いてきたことだ。語り得ない感情をフィクションで俯瞰する作家夫婦、という今作のアプローチは、そうした地獄絵図に別のレイヤーを差し込むものではあるが、例えばそれはノア・バームバックが「マリッジ・ストーリー」で成功したような、一つの会話の中で作家と個人を何往復もする領域には達していない。

・「男性らしさ」の自縄自縛や男女逆転の主題は前年パルムドールの「逆転のトライアングル」にも共通する。クィアな妻に「立ち位置を示せ」と強いる法廷やワイドショー、結果的に子供がこの諍いの責任を背負う。子供に酷な話に見えるからこそ、子供の描写にもっと時間をかけて欲しかった。50 Cent=女性蔑視との主張にインストだからセーフ、のくだりはちょっと笑ったけど
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