Jun潤

セフレの品格(プライド) 初恋のJun潤のレビュー・感想・評価

5.0
2023.07.22

城定秀夫監督作品。
なんと城定監督が二部作で大ヒットレディースコミックを実写映像化。
しかも全年齢対象だった例年の作品とは打って変わってR15+レートのほぼ原点回帰。
こりゃ期待しかありませんわ。

二度の離婚を経て、今は東京にある死んだ両親が遺した実家で、一人目の旦那との娘と二人で暮らしている森村抄子は、高校の同窓会に向かおうとしていた。
そこで再会した初恋の相手、北田一樹。
バツ2であることを話したくない抄子を、根掘り葉掘り聞こうとする同窓生から、一樹は自分もバツがあるからとかばってくれた。
かつての想いが甦ってきたような気持ちになる抄子。
飲み過ぎてしまい、トイレの前でフラついていると、一樹が声をかけてきた。
そして、ホテルに誘われる。
一夜の関係のはずだった、また結婚したいと考えてしまった、しかし一樹が求めてきたのは身体だけの関係。
拒絶する抄子だったが、久しぶりのセックスを忘れることができない。
そんな時、同窓会で再会した華江から連絡を受け、華江の家に向かうと、部屋の中には一樹がいた。
セフレ同士だった一樹と華江の関係に驚愕する抄子。
しかし、華江がガンで乳房を全て摘出したと知り、言い寄ってくる会社の上司との愛の無いセックスを経て、抄子は一樹との関係にのめり込んでいく。
そんな一樹には、知られざる驚愕の過去があったー。

これはAVですか?いいえ、映画です。
これがピンク映画の巨匠、城定秀夫が放つ本気の映画ですか、素晴らしい。
鑑賞後の男性はみんなきっと前屈み。
相変わらず抜群の上手さを誇る女性の描き方に加え、大人のための恋愛映画ならではの濃厚な人間ドラマ。
しかし鑑賞後のこの気持ちがムラムラからきているのではないかと勘繰ってしまうため、とりあえず特別スコアで。
二人の関係の結末が描かれるであろう『告白』も気になりますしね。

「デートも記念日もない、それがセフレのルール」
「好きな女を指折り数えるダサい男にはなりたくない」
「目標が決まったの。素敵なお別れをする」
原作パワーかもしれませんが、世界のユウジ・サカモトをも上回るセリフ回し。
好きな女を指折り数えるダサい男でごめんなさいですよ本当にもう。

未だ過去に謎が多い抄子に比べ、細かい描写からもしかして?と、想像を駆り立てさせる深い深い暗がりを背景に持つ一樹と華江。
華江は大方予想通りでしたが、まさかそれを女性の短い期限の内に精一杯性を悦べというエールにするとは。
そして泥沼のような関係に浸かっていく大人達とは正反対に、ファミレスで喋るだけのデートや、誕生日プレゼントのケーキ作りに精を出す娘の存在がたまらなく尊い。

抄子の母として、妻として持っているモラル、それを上回る女の欲、そのさらに上層にあるのが『セフレのプライド』、そして頂点には、人それぞれの形に出でる人間の狂気。
役者さん的にもう栗山の脳絶滅タイムが止まらなかったのですが、一樹が言うところのモラリストとして到達してしまった狂気。
それはモラルの範囲内か、それともインモラルが歪ませてしまったのか。
一樹の元妻が見せた狂気はもう目を覆い隠したくなるような、女性として、人間としてとんでもなく恐ろしいまさに怪物の姿。
その正反対の位置にあるのが、栗山との愛の無いセックスの際に抄子が見せた感じてる演技なんですかね、いやはや恐ろしや恐ろしや。

今作鑑賞中はもう感情というか、自分の中のモラルがあっちこっちへ暴走しっぱなしでした。
まぁ一応セフレがいない身からしたら序盤の一樹と華江はインモラルまんま。
しかし一樹とセフレになり女としての快楽と悦びを感じている抄子の姿を観ていると、会いたい時に会って抄子を感じさせる一樹とは正反対な、抄子に頻繁に言い寄りセックスは下手で事後の佇まいもクソダサで共感性羞恥を禁じ得ない栗山の存在こそインモラルに観えてくる。
そして坊ちゃんの坊ちゃんがまだ坊ちゃんだった頃に出会ってしまった一樹の前妻の行動は、どこからどう観てもインモラル。
まさか坊ちゃんの坊ちゃんが坊ちゃんじゃなかったとは。
行為自体は抄子と一樹の関係と同じなのに、吐き気を催す邪悪な狂気、おそらくは自分が悪だと気付いていない最もドス黒い悪。
彼女は何を求めていたのでしょうか、女としての悦び?母としての幸せ?
大樹が父と離れ離れになってしまうという時に振り返りもしないということは、そういうことなんでしょうね。
さぁさぁ栗山の絶滅タイムはまだまだ終わらない、上述の通り栗山も至った一応モラリスト側の人間の狂気。
もうここまで来るとどっちが悪いとか、どっちが良いとかはもう分かりません。
少なくとも今作には、今まで自分が築いてきた価値観をブチ壊しかねない破壊力を持っていたことは分かりました。

結合部を絶妙に映さないカメラワーク、行為中感じている表情や愛に溺れる表情を引き出す手腕、向かい合う二人の顔を同じ画角に映す巧妙な鏡の使い方、セフレの関係を情緒的にするBGM、それを差し引くと喘ぎ声とクチュ音だけが生々しく響き、その二つが融合することで一つの音楽へと昇華する。
ピンク映画の巨匠が持つ引き出しの多さを僕たちはまだ知らない。
Jun潤

Jun潤