YasujiOshiba

SISU/シス 不死身の男のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
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アマプラ。24-45。42, 43, 44 はSTEP上映会の3本。

予告で気になっていた作品にキャッチアップ。着想の源のひとつが映画『ランボー』(1982)で、もうひとつが冬戦争でソ連軍から「白い死神」と恐れられたシモ・ヘイヘ(1905 - 2002)の存在。

冬戦戦争(1939年11月30日 - 1940年3月13日)は、フィンランドに侵攻してきたソ連との戦い。講和条約を結ぶが、フィンランドは領土的に譲歩。その後、ドイツと接近して対ソ継続戦争(1941年6月25日 - 1944年9月19日)に入る。フィンランドはよく戦ったが、対ソ休戦の条件として、駐留ドイツ軍の排除が必要となり、ラップランド戦争(1944年9月から1945年4月)が戦われる。

この映画は、このラップランド戦争で、ドイツが撤退しながら焦土作戦を展開していたころの話。だからドイツと殺し合いをやる主人公「伝説の一人殺戮部隊アアタミ・コルピ」(ヨルマ・トンミラ)は、ドイツ軍とかつて友軍として戦っていたはず。その友軍が突然に敵軍に変わってしまうというのは、イタリアでも1943年の休戦協定以降に起こったこと。

ドイツ軍を占領軍としてパルチザン闘争を行ったイタリアのように、フィンランドもまたラップランドで焦土作戦を展開するドイツ軍と戦う。しかし、本当の侵略者はソ連であり、戦後、そのソ連が戦勝国として国連の常任理事公になることで、フィンランドもまた敵国条項を適応される国(日本、ドイツ、イタリアなど)となるわけだ。

だから『ランボー』であり、シモ・ヘイヘであり、ラップランド戦争なのだよね。じつは複雑なのだけれど、ナチスという象徴的な悪をうまく利用し、ド派手に肉塊を炸裂させるスペクタクルで、勧善懲悪もののように見せかける。女パルチザンの一団も登場したりするのがカッコよいのだけれど、それもまた見せかけ。

見せかけの外連味がこの映画の持ち味なのだけれど、そこに哀愁が漂わせるのがあの金塊。なんといってそれは、焼き尽くされ失われたラップランドへの強烈なノスタルジーということなのだろう。

いやあ、勉強になりました。マカロニウエスタン風のバイオレンスも、それにぴったりのモリコーネ風の音楽も、きっちりとフィンランドの香りがして、じつに歴史を感じさせてくれたから、そのおかげです。
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