かなり悪いオヤジ

地球は優しいウソでまわってるのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

3.5
この映画の主人公家族は間違ってもトランプには投票しないリベラル家族である。定職にもつかず大麻ショップ?!でアルバイトする一人息子を優しい目で見守るママはライターで、パパはセラピスト。ウサギのように野菜サラダばかり食べているヴィーガン一家だ。ママはライターの傍ら、インテリアコーディネーターの妹とホームレス・ボランティアなんかをしていて、一人息子が嫉妬するほどのオシドリ夫婦のはずだった...

しかし、妹と立ち寄った靴下ショップで、優しいパパがママが書いた新作ノンフィクションにダメ出しをしているところを、ママが偶然立ち聞きしてしまうと....「世界が崩壊しかけているのは分かるけど、この自己陶酔的な世界も私にとっては大切なの」と、励ましのため嘘をつき続けてきたパパをママはなじるのである。ここで私は、リベラルな人たちが家族や友人、移民たちマイノリティたちとの繋がりに異常なほどの執着をみせる理由が、少し理解できたような気がしたのである。

リバタリアンとは、国家による規制を最小限に抑えて人間の自由を阻害するものをなくそうとする考え方らしいが、裏を返せば、借金が極大まで膨らんでいるアメリカや日本では、もはや手厚い社会福祉を維持することが不可能になっているわけで、政府機能を民間に委譲する以外に手立てが無くなっているのである。岸田政権がDSの指示で行っている一連の政策には、約1200兆円にものぼる国債残高を背景に、日本が実質的な社会主義からアメリカのような市場自由主義へと本格的に転換せざるを得ない、やむにやまれぬ事情が裏にある気がするのだ。

このリベラルならびにリバタリアンを毛嫌いするトランプ支持派は、世界が崩壊しかけているにも関わらず、まだまだアメリカという国家に依存したいある意味甘えん坊なのであろう。“グレート・アメリカ・アゲイン”という実現の可能性が極めて低い夢をまだまだ見続けたい人々なのかもしれない。見かけはナヨナヨして軟弱そうであるが、アメリカの弱体化を正面から見据え、国家に頼らない自立的な生き方を目指している人々、それがリベラリストもしくはリバタリアンなのではないかと、ふと思い至ったのである。

国家にはもう頼れないと思っている人々が何を拠り所にするのかというと、この映画の登場人物のように、やはり家族であり友人なのであろう。その家族や友人たちが、励ましのためとはいえ嘘をつかざるを得ない状況に追い込まれているのも、また現在のアメリカという国の真実なのではないか。国家にも頼れない、家族や友人もウソばっかりであてにはできない。もはや自分自身以外に信じられる者が何もない状況をして、パパやママに「世界が崩壊しかけている」と言わしめたのではないだろうか。