かなり悪いオヤジ

ストロンボリ/神の土地のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

ストロンボリ/神の土地(1949年製作の映画)
3.6
『無防備都市』を観たイングリッド・バーグマンは、ロッセリーニに対して熱烈なラブコールを手紙にして送った。「あなたと一緒に映画を作りたい♥️」気をよくしたロッセリーニはかねてからあたためていた映画の構想をバーグマンに滔々と語ったという。そのバーグマン×ロッセリーニの第一作目がこの『ストロンボリ』である。(映画同様)撮影中いい仲になり、お互いに家庭を持ちながらW不倫に走った二人は後に結婚、数年後に離婚することになる。

戦争でデンマーク人建築家の夫を亡くしたカーリンは、難民キャンプでアルゼンチンへの移住を申請するものの却下され、仕方なくイタリア人捕虜のアントニオ(マリオ・ヴィターレ)と再婚、アントニオの故郷ストロンボリ島へ移り住む。しかし素朴な漁村の生活になかなか馴染めないカーリンは、地元の女たちから「傲慢で厚かましい」と総スカン。やがてアントニオの子供を妊娠したカーリンだが灯台守の男と不倫、アントニオの束縛を嫌い島から脱出を図るのだが...

おそらくロッセリーニがバーグマンに聞かせた映画の構想とは、素人同然のエキストラに囲まれたバーグマンを一人浮かせる演出にあったのではないだろうか。『ヨーロッパ1951』しかり『イタリア旅行』しかりなのである。ハリウッドで培われた有名女優の嘘っぽい演技が、ネオリアリズモの撮影現場とはまったく馴染まないことを、観客の前に示そうとしたのではないだろうか。本作は興行的に大失敗だったらしいのだが、そもそも興行を気にした映画作りなどロッセリーニにはあまり興味がなかったはずなのである。

ネオリアリズモが是とする娯楽が何もない質素な生活に、贅沢三昧を経験しているハリウッド女優が耐えられるわけがない、とロッセリーニははじめから予測していたはずだ。実生活を反映させている本作にストーリー的な面白さを期待してはいけないわけで、主人公のカーリンと女優としてのバーグマンの立場がかなり似通っていることに気づけないと、面白くもなんともないのである。出国審査官に扮したロッセリーニの「次の女は嘘が上手いから気を付けろ」なんて台詞は、家族を捨て自分のもとへ転がり込んできた女優としてのバーグマンに向けられた台詞なのであろう。

ラスト、活火山から吹き出す有毒ガスをしこたま吸い込みむせ返るカーリン。「これで終わり....怖い、こんなに怖いなんて.....誰か助けて」映画は本来、カーリンが火口付近で泣き崩れるこのシーンで終わりだったはずだ。その後に続く翌朝目覚めるシーンは、後づけのハリウッドエンディングであろう。自然に根ざした人々の生活を見下し不倫までしでかした女に、とうとう天罰が下ったのである。実生活においても同じ罪を犯したバーグマンが甘んじてその罰を受けること、それこそがバーグマンに演技指導をしなかったというロッセリーニの狙いだったはずなのである。