ヨーク

FLY!/フライ!のヨークのレビュー・感想・評価

FLY!/フライ!(2023年製作の映画)
3.9
かの『ミニオンズ』シリーズ、いや最近なら『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のアニメスタジオと言った方が通りが良さそうなイルミネーションの最新作『FLY!/フライ!』でしたが、いや面白かったですよ、これは。そういやこないだ本作の宣伝のためなのだろうが金曜ロードショーで『SING』をやっていたらしく、それを見た方は本作を観てもきっと満足するだろうし本作を観て『SING』は未見という人はそっちも見れば大いに気にいるのではないだろうか。
この感想文の出だしで何となく察する人もいるかとは思うが、まぁ本作『FLY!/フライ!』はいつものイルミネーション印のアニメ映画として出来の良いものだったので、まぁ余程のことがない限り大きく外すということはないだろうと思う。というわけで老若男女問わずにオススメできる良作ではあるのだが、良くも悪くもいつも通りのイルミネーション作品のノリということなので傑作や名作というほどに激推しできるというほどでもないのも確かなのである。直前に観た『ムーミン谷の彗星』の感想文でも似たようなことを書いたが、でもそこがいい映画だったと思うな。
ストーリーも単純明快。何の心配もない池で暮らす4羽のカモの家族の元にある日渡り鳥たちの一群がやってきて一緒に渡りをしようよと誘うのだがカモ一家の父親は非常に用心深くて保守的な性格なので外の世界に出るよりもこの池で過ごす方がいいとしてその誘いを固辞。しかし子供たちや自由奔放な母親は渡りに出たいと言う。そこからなんやかんやあって結局渡りに出ることになり、目的地であるジャマイカ(多分主人公一家の住む池はアメリカ北東部)を目指して飛び立つ…というお話です。
ま、ぶっちゃけどうということのないお話なんですよ。外部に出ることを恐れて引きこもっていても良いことないよっていう、リスクはあるけど外に出て色々な世界を見てみようよ! っていうそういうお話ですね。ちびっ子向けとしては実にありふれたテーマではあると思うのだが、怖いかもしれないけど引きこもらずに外へ出ようねというようなテーマも最初の15分くらいで消化した後はひたすら楽しいだけのスラップスティックなギャグ満載のはちゃめちゃ映画になっていく。それが実に素晴らしいなと思うんですよね。俺なんかは分別のある大人の客(一人でイルミネーションの新作アニメを観に来るという)だから、これはきっと父親の保守的な思想と母親の奔放な性格がぶつかって中盤辺りではバチバチしたりするんだろうな、とか思っていたのだが、本作にそういったシーンはほとんどない。ま、お約束的な感じでカモ一家がピンチになったときに母親が「こんなことになるならあの池にいるべきだったわ…」とこぼすシーンはあるのだが、そこもいうほどドラマチックなシーンとして演出はされないんですよね。多分ディズニーとかピクサーの映画ならそこが大きな見せ場になるはずだけど、本作ではそこは一応描いとくかっていうくらいの比重でそんなに大事な部分ではないんですよ。
そこがいいよね。そんなことよりも楽しいアクションとナンセンスなギャグだ! というこのイルミネーション印的なカラっとした展開は素晴らしかったです。ただまぁ、それでも映画全体としてはやっぱ家から外に出て冒険することこそが大事なのだ、という方向性自体はあるのだが、本作はそこも結構巧くできていて、それだけではない部分も見せてくれる。というのも途中でカモの一家が出会う南国のオウム(インコだったかも)がいるのだが、これがジャマイカ出身のオウム(またはインコ)で道案内も兼ねてカモ一家は彼と同行することになるんですよ。ここで示されるのは本作は外部へと出る冒険の物語だけということではなく、そのオウム(インコ)にとっては家へと帰る旅路ともなるわけです。要は冒険と帰宅が同時に描かれて、そのどちらもが大切なことだと示されるわけですね。これは中々に巧い構成だったと思う。
とはいえ全くと言ってもいいほどに説教臭いところはなく、基本的にはただ楽しい旅が描かれて、あー何だよ、最初は面倒くさいと思ってたけど行ってみたら案外楽しかったじゃん、という映画なのである。そしてそれは娯楽映画を観るために映画館に出かける観客の気持ちの動きとしては理想的なものではないだろうか。今後の人生を左右するほどの感動とか価値観の変動はないが、結構面白かったなこれ、っていう気持ちでまた家に帰ることができるという、ファミリー向け映画としてはこれ以上はないくらいのものであろう。
新しい価値観を提示するのだ! みたいに理想に燃えて力入った映画もそりゃ必要ですけど、これくらい気軽に観られる映画もまた必要なのだと思う。イルミネーションは本当にその需要に沿った作品を送り出してくれるのでやっぱ大好きだし、その点での信頼感は非常に高いですね。肩に力入れずに観るにはちょうどいい映画でしたよ。
あとはそうだな、全体的なアニメーションのクオリティは相変わらず高く、中でも鳥が空を飛んでるシーンはかなりグッときた。鳥が空を飛ぶ、ということが象徴するような力強い自由さは自分がすでに失ってしまったもののようでもあり、それを眺めてるだけでちょっと涙ぐんでしまいましたね。ま、繰り返し書いてるようにそんな大げさに観るような作品ではないのだが。でも鳥のアニメーションは非常に良かったのでキャラクターが続投した続編でなくてもいいから、また鳥シリーズの新作を観たいなぁと思いながら観ていたので、それを見透かされてたかのようなオチはちょっと笑ってしまった。その辺の洒脱感もイルミネーション作品ぽくて良かったな。
最後に、イルミネーション作品の恒例でもあるミニオンズの短編もひたすらにアホらしくて良かったですよ。声出して笑っちゃった。
ま、そんな感じで気軽に観るにはとても良い映画でした、特に家族連れにはオススメできますね。面白かった!
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