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フランス発の音楽映画だ。
今作はオペラがテーマである。
素晴らしい。
実にいい映画だった。
私は古今東西あらゆる音楽に造詣が深い事で有名だが、唯一オペラだけは門外漢なのだ。
からっきしなのである。
オペラ偏差値25なのだ。
そんな私でさえ何不自由なく鑑賞できた作品が、これだ!
主人公はアントワーヌという青年。
下町育ちのラッパーだ。
対立する隣町とのラップバトルに興じたり、友人たちと面白おかしく暮らしていた。
彼の兄は地下格闘技の闘士で粗暴で厳つい。
厳つい事、山の如しなのだ。
こう言ってはなんだが、クラッシック音楽とは一切接点のない生活環境なのである。
そんなアントワーヌが、ある日オペラと出会ってしまう。
感動と衝撃を受けるアントワーヌ。
そして、ロワゾー先生との出会い。
このロワゾー先生がアントワーヌの素質をいち早く見抜き、自分のオペラ教室にスカウトするのである。
そう、アントワーヌは実にええ声の持ち主だったのだ。
最近、観た「オートクチュール」「4分間のピアニスト」などの師弟映画とシチュエーションは似ている。
この2作品は非常に評価も高いし、私もいたく心を揺さぶられたものだ。
それらを彷彿とさせる雰囲気に彩られた作品なのだ。
感動は約束されたようなものである。
だが、アントワーヌは上記2作品の主人公ほど強情ではない。
非常に素直だ。
ロワゾー先生には全幅の信頼を置いているのである。
彼が最も頭を悩ませるのは、兄や町の友人たちとの関係だ。
彼らにとってオペラなどは、上流社会、お金持ちの象徴で、自分たちとは全く相容れない物の代表格なのである。
だから、アントワーヌは、オペラを始めた事を誰にも言えない。
特に兄は激怒するに違いないのだ。
兄は、ラップバトルで隣町を打ち負かす事をアントワーヌに期待しているのである。
この兄については、若干補足しておく必要があるだろう。
彼はただ粗暴なだけの男ではない。
自分に学がないだけに、アントワーヌにはきちんと教育を受けさせ、真っ当な仕事に就いて欲しいと思っている。
彼は拳ひとつでアントワーヌの学費を稼いでいるのだ。
なんとも泣かせる話ではないか。
早晩、アントワーヌがオペラに没入している事は、仲間たちに知られる事となる。
果たしてその時、仲間たちはいかなる反応を示すのか?
アントワーヌはどのような選択をするのか?
最後の場面。
アントワーヌ渾身の歌声。
ロワゾー先生の手紙と兄や仲間たちのお力添えのお陰か、彼は朗々と見事に歌い上げる。
実に感動的なラストシーンだと言えよう。
このシーンを感動的たらしめているのは、アントワーヌの歌声はもちろんなのだが、兄の表情によるところも大きい。
この兄の表情が実に様々な事を物語っているのだ。
是非とも観ていただきたい作品である。
ラップに対して、ちゃんと敬意をもって描いているところも良かった。
アントワーヌとロワゾー先生が、お互い好きなCDをプレゼントし合うのだが、ロワゾー先生がノリノリでラップを聴くシーンは、楽しくも微笑ましい。
重い話ばかりでなく、コメディ場面も多々あるので、ご安心して観ていただける作品だと言えるだろう。
ちなみに私もアントワーヌに負けず劣らず、ええ声の持ち主として有名だ。
非常に男性的かつ野性的な容貌と相まって、世の女性たちの黄色い声が絶える事はない。
群がりくる美女どもを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの毎日なのだ。
いやはや困ったものである。
ちなみに私のパートはソプラノだ。
得意な曲はプッチーニ「トゥーランドット」である。
嘘である。
丸々嘘である。
(うん、知ってる)