ヒノモト

キリエのうたのヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

『リリイ・シュシュのすべて』『リップヴァンウィンクルの花嫁』などの岩井俊二監督の最新作。

前提として、ここからすでにネタバレなのですが、今作は東日本大震災を物語に織り込んでいて、地震の描写が大きなポイントとなっています。

しかし、監督自身が東北の宮城県の出身であり、その後の作品に反映されているように、今作においての地震やその後の光景の描写も、その事実としてのショック以上にドラマ構成として見応えがあり、登場人物たちが震災によって受けた心の痛みに寄り添った物語になっている丁寧さに、今作を観て不快に感じる要素は全くありませんでした。

震災を体験し歌声以外に大声が出せなくなってしまったキリエ(路花)がストリートミュージシャンとして歩んでいくまでの15年間の流転のお話。

音楽映画っぽい始まり方をするのですが、震災孤児として大人たちの都合で各地を転々とする中で、音楽との出会いと別れを繊細に描く分、約3時間のボリュームになっている訳ですが、現代と過去のエピソードが入れ子になっている割には、物語構成が観客の見たい欲求に届く場面が次々と展開されて、混乱することがなく見やすい映画でありつつも、人物像のバックボーンの描き方、その奥行きを感じさせる部分も多く、映画の長さを感じることなく、いつまでもこの世界に浸っていたいと感じさせる心地よさがありました。

キリエを演じるアイナ・ジ・エンドさんのボーカリストとしての魅力、音楽映画としての聞き心地の良さは、過去の「スワロウテイル」や「リリィシュシュのすべて」にも通じるところでもあります。映像カットとして見ると過去作を彷彿とさせる描写もあり、新作としての新鮮味は多少欠けるところもありましたが、時間をたっぷり使って登場人物の機微が描かれているところ、音楽もオリジナルだけでなく、既成曲の使いどころ、歌詞とシーンのリンクの美しさも相まって、音楽映画としても満足度の高い作品でした。

最後に、エンドロール中にも映画が続いているのですが、それが目に見えたハッピーエンドになっていなくても、音楽の中にいる心地よさと、主題歌ではないある劇中歌が流れる演出もあり、本編以上に良かったです。
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