ちこちゃん

キリエのうたのちこちゃんのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.2
鑑賞後、とても疲れてしまった映画です。それは、2時間59分もある映画の時間的な長さから来るものではなく、映像の美しさや華やかさとは対照的に、話の重さ、哀しさ、そして優しさや繋がりが詰まっていて、とても複雑で立体的な構造をしている映画であるからだと思いました。
そして、音楽!アイナ•ジ•エンドさんの声の存在感、そして楽曲の選曲と編曲など音楽を担当された小林武史さんの才気が岩井監督の脚本と映像をさらにレベルの高いものにしたと思いました

宮城、大阪、北海道、東京と舞台を年月とともに飛びながら、路上ミュージシャンのルカ、ルカの姉のキリエ、キリエのフィアンセのなっちゃん、そしてルカのマネージャーをかってでる逸子、そしてルカを保護するふみの人生が交錯して織りなす物語

自分の過去の出来事を無きものとしたいという自分の弱さと葛藤しながらも優しさゆえに過去を抱えながら生き、それにより自分の人生を変えてしまうなっちやん、法律の壁により、自分の行動が制限されてしまうふみ、母の女を使って生きることから反発しようとしながら、経済的理由により、自分の進路を変えざるをえず、結局母と同じく女を使うことになってしまった逸子、小学生の時に母と姉を無くした時に声も無くしてしまい、歌うことしかできず路上生活をするルカ。

その誰もが、現代社会が持つ価値観である効率や個人の利得の追求から弾かれてしまった弱者であり、救われない現実の厳しさを描きながらも、監督の彼らに向ける眼差しの優しさを感じます。そして、個人間の関係においたも、効率では測れない繋がりとして、なっちゃんとルカ、ルカと風美、ルカと逸子の関係を描くことで、希望を持てる、救いを示していました。

演者の観点からは、ルカを演じるアイナ•ジ•エンドさんの圧倒的な存在感。男を騙し、いい加減な生活をしながらもルカとの関係を変わらず大事にし続ける難しい役割を演ずる素晴らしい演技の広瀬すずさん。そして、慈愛に満ちた先生役をそつなくこなす黒木華さん、これらの3人を繋ぐ重要な役どころであるなっちゃんを松村北斗さんが一生懸命に演じています。

配信が始まったら、再度観たいとおもう映画でした。2度観ることで、あらたな気づきも得られように思います。

昭和の曲は、曲自体に力があるとこの映画を観て思いました。
アイナさんの声が独特の個性があり、声自体がストーリーを持つような、忘れられない歌でした。
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