ちこちゃん

PERFECT DAYSのちこちゃんのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
人にとってperfectな人生とはなんでしょうか。
人によって違うでしょう。
この映画は、役所広司さんが演ずる平山という現実には存在しそうもないが、そうなりたいと思わせる人のperfect な人生を描いています。

お風呂もついていない古いアパートでの暮らし、植物への水やり、東京の公園の公衆トイレを掃除する仕事、朝の缶コーヒー、ランチはサンドウィッチ、木漏れ日の写真を撮る、銭湯、浅草の酒場で一杯、読書、これらのルーティンは毎日変わらずあり、それに満足する平山です。 朝、玄関から出て、朝焼けを見上げて微笑む平山、その少し微笑む表情が満足を示しています。
休みの日は部屋の掃除、コインランドリーでの洗濯、写真屋でフイルムを買い現像を頼み写真を受け取る、古本屋で新しい本を見つける、スナックに行ってポテサラを食べる。

満足していても、変わって欲しくないと思っていても変わるのが人生です。それは、木漏れ日が毎日同じでなく、変わっていくのと同じことなのです。
その変化は、会ったこともない人とのマスゲームのやりとりであったり、姪っ子の訪問であったり、スナックのママの人生に踏み込んでしまったりすることで訪れます。
それらを受け入れる平山であり、それらの変化ですら彼のperfect daysを彩ることはあっても損なうことはないのです。

映画を観て感じたことが3つあります。
一つは東京の見せた方があまりにも美しく、特に、朝夕の自然の光と人工的な光を魅力的に入れて風景を切り取っていて、スカイタワーが入る風景を見たくなりました。監督にこんなにも東京を美しく切り取ってくれて、感謝の気持ちでいっぱいです

もう一つは、この幻想でしか存在しないような平山という人物が、本当に居るかもしれないと思わせた役所広司さんの演技です。
水仕事をしているであろうゴツゴツとした荒れた手、役者さんなら本当は体を鍛えて筋肉質にしているであろうところ、その辺にいる中年のように少し弛ませた体を銭湯で見せること、読書の時の老眼鏡の掛け方など細部にわたり、平山が実在する人物であろうことを役所広司さんが雄弁に観客を説得します。それは、古新聞を濡らして畳に撒く掃除の方法、ガラケー、カセットテープ、読む本の種類などの道具を使うことでも、平山のミニマムな生活と平山の過去は見せずとも、年代、知性、性格などをこれらの道具を使うことで観客に連想させることにより、観客が平山に近づけるのだと思いました。これらの人物造形が深く精緻であることがこの映画を見応えのあるものにしていると思います。

三つ目は劇伴です。カセットテープの湿った音による平山の心を代弁する曲が流れることで、平山のセリフがなくとも、観客は平山の心情を読み取れ、作品が何倍にも深みがあるものになっています
このサントラが欲しいです

It's a new dawn
It's a new day
It's a new life
For me
And I'm feeling good

これが平山だと思いました

このものの溢れる現代、「お金がなければ恋すらできないのかよ」というセリフに象徴される価値観が蔓延る現代、そういう現代の価値への疑問を提示する映画だと思います。そしてそれは自分がどう生きたいのか、ということを問うことでもあります
そして、世界を対象にしているこの映画が日本の東京を舞台にしていること、そして東京の魅力(公共トイレのキレイさ、そしてそれらを保つための細やかな努力をする人が居るという文化もふくめて)をありがちな外国人目線ではなく、かつ日本人の目線でもないが、新しい角度で見せてくれていることに心から感謝して楽しんだ映画でした

追記 スナックのママの歌がうますぎです
ちこちゃん

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