しょう

PERFECT DAYSのしょうのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

役所広司演じる平山は、傍から見ると何も変わらない日々を送っている。
しかし、全く同じ時間というものはこの世に存在しない。そう、光と影のゆらめきで一瞬たりとも同じ姿を見せない木漏れ日のように。

近所の箒ではく音で目覚め、布団を畳んで隅に置き、寝る前に読みっぱなしになっていた本をしまう。
木々に水をやり、服を着替え、歯を磨き、ヒゲを整え、玄関横の荷物をポケットに入れ、家を出て、空の様子を見遣る。
自販機でコーヒーを買い、運転席に乗って、ひと口飲んでひと息つく。
車を発信させ、仕事場に向かう。
スカイツリーを見上げるころ、カセットテープの再生ボタンを押す。

変わらない日常。変わらない風景。
しかし、男の目に映る世界は、刻一刻とちがう景色を映す。
(飽きない演出のためではあるだろうが、同じ行為を切り取っても、画角や寄せを変えているのは、男の心持ちを代弁しているようでもある。)

男は丁寧である。
目に映るものを、一瞬を、そのときを大事に生きている。本人にその自覚があるかは分からない。
自分から能動的に変化を起こそうとはしない。しかし、丁寧な営みは、時として傍から分かるような変化も受け入れる。
男はそんな日常も好きだ。

口数の少ない彼だが、決して心の動きが疎いわけではない。時に泣き、時に怒る。微笑みは彼のベースかもしれない。

若い子に不意に頬キスをされた日の酒で振り返るのが、職場の後輩が触られていた耳たぶだったり、姪っ子の前では口数が多くなったりする場面には、彼の微笑みがふと私に移ってしまった。

彼は「人」が好きなのではないだろうか。そして、彼にとって心地よい距離感を楽しんでいる。
もちろん彼の心中は分からないが、少なくとも彼は「人」を拒絶する人には見えなかった。

彼は自分の妹から、「住む世界が違う」と言われていたようだが、彼の仕事はそれこそ「人」なら誰もが交わりを持つ可能性がある場所である。

木漏れ日を吹き抜ける風が、地球の裏側から届いたものかもしれないように。

本題からは少し逸れるかもしれないが、東京のトイレの多様さには目を見張った。もちろん、いわゆる普通のトイレもあるのだろうが、おしゃれと感じてしまうトイレが点在していることを知らなかった。確実にこの作品に色と華を添えていた。
(日本はトイレがきれいだと言うし、海外の人向けにトイレの素晴らしさが伝わるのも嬉しい。)
この作品の聖地巡礼は、都内のトイレ巡りになるだろうか。

変わらない日常。それは、自分自身が変わりたくない日常なのかもしれない。
今、この瞬間も見たことのない風景が目の前には広がっている。

あなたの目にこの世界はどう映っている?
しょう

しょう