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PERFECT DAYSのこたつムービーのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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こーれーは長くなりそうだ・・
【噛みきれない作品ゆえ長文注意報】

アカデミー賞を数日後に控え、話題もあり気になって観に行ったという下世話根性は大いに認める。で、最近の映画館体感としてはやたら混んでた。近年では珍しく7割は埋まっておりロングラン恐るべし。そんなで超久しぶり、ピナバウシュぶりにヴェンダース作品を映画館でみたわけだが


さて、どこから片付ければいいだろう。手っ取り早く「好き嫌い」から先にいってしまえば


好きじゃない作品だ


役所広司。好きな俳優である。が、好きゆえに彼の特性は二つあると思ってる。それは、

シャブ極道サイド か
ぶりっこサイド  かである

で、今回の役所は「ぶりっこサイド」。こーれーがオレだめなんだわ。あの、肩をすくめる感じ? やーい、そっちサイドかあー、ですよ。むろん麻生祐未との別れもラストの大写しもそりゃいいですよ。だが全般的に「ぶりっこサイド」なんでポテンシャル半減。正直平山のどこがチャーミングなのか探す事はなかなか難しかった(それと平山さんよ、声出そうぜ! 人間喋らないと声帯衰えるぞ!)。

というのもキャラクターの彫りで言ってもどうしても平山と音楽の趣味が結びつかないから。
これはオレ自身も疑ってみた、つまり「果たしてオレのルッキズム(見た目偏向)からくる偏見的不和か?」と。しかしどうしても平山がルーリードを聞くようには感じないし、金延幸子のオリジナルカセット(あったらマジで高価だろ!)を聞く人間には見えんのだ。


ヴェンダースさんよ
単にあんたの趣味だろ!合ってねえよ


こんな想いが喉元にありながらずっと観てたわ。
それと途中ほんと退出しそうになったのが「音響」のくそさ。とにかく生活音が煩くて仕方ない。

平山の行動の生活音をいちいち立てるもんだから、「この男、実はせっかちで怒りっぽいんじゃね?」と観客をミスリードし悪影響すら与えるレベル。
やかんドン! ふとんボン! うるせーって感じ。なに、平山って男は不機嫌なの?
そうじゃないならあの音響設定は逆効果だ(ってヴェンダースは70年代から環境音やたら出す作家だがダメなもんはダメである)。


いったいこの映画はなにを礼賛してたのか。
答えのでない「平山の夢」、そして「4:3」の画角サイズはなぜ選んだのか。

パーフェクトデイズと題しているがすでにその「4:3」の画角に「時がとまった」が出ているような気がオレはするけどね。最後の大写しもタイトルとは逆行する悲喜劇にオレは想う。
トイレを現代建築としてキュレーションしてみせる感性はさすがヴェンダースか。



追記:3/10

数日経ち、引き続き考える。
とくに劇中「自炊する」シーンがないことについてだ。日常を切り取った(あるいはそう装った)映画でありながら料理と呼べる料理は出てこない。

これは不自然というか、意図的に作家は避けたのだとオレは考える。平山(役所)はいきつけの店でたべスナックで飲む。これは案外エンゲル係数の高い生き方をヴェンダースは率先して「選んでいる」。


労働と消費


このテーマで読み下すとこの映画の意図が見えてくるように想う。料理も一つの創造行為だがその描写を避けているのだから。
もっともオリンパスの銀塩フィルムによる写真撮影という「趣味」は与えられていて木訥とNG写真をちぎる姿があるわけだが、これもわかるようでいて存外不十分に描いている。つまり平山は額縁にいれることもなければ悦に浸っているとも考えられず、本当に木訥と「こなしている」からだ。もっと言えば本当のところそこまで興味が無いようにさえ感じ主題ではない。主眼はあくまで「労働と消費」だ。



そうか、これってニーチェか



と思った。ヴェンダースの意図がわかった。
その筋で追うと「永劫回帰」を平山に仕込んだことがわかる。そして平山を超人ではないが末人として描かないギリギリの描写で拘ったわけだ。それが共感を呼び評価にも繋がったとも言える。
その証拠が「オリンパス」だ。
ギリシャ悲劇のオリンポスから来る「それ」を与えられた主人公は永遠の煉獄で空を見上げるのだ。そしてだからこそ白黒の夢は解決に向かわない。


なるほどね


まずはこうして後日もボーッと考えられるのが結局いい映画の証拠のようにも想う。くどいようだが表層の端々は好きではないがね。それもたっぷり書いた。