こたつムービー

パスト ライブス/再会のこたつムービーのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

開いた人ごめん。長すぎレビューです。

【公開1週目につきネタバレカバー】


とても良い映画だった。また、重層的だ。
ラストの抜け方が素晴らしすぎて、このラストで1億点加算されるのでそれまでのマイナス面が一気に帳消しになる。

いやホント、ラストがいい。
それと音楽がとにかく良すぎる。普段映画音楽をやってないだろうと思しき音楽家意匠なアンビエントでホント素晴らしいサントラ。

以下、完全備忘録メモだ。あまりまとめるのが惜しいので順に下す箇条書き形式メモ!
(観てない方にはとても以下を勧めません)
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◉「A24」と冒頭にあり昨今の体たらくに「うっ」と思うのだがよくよく思い返すと、これ系のA24は劇場きてるんだよな。A24自体の出世作「ムーンライト」も「ビールストリート〜」も足を運んでいた。A24のこっち系ラインは信用してるんだな、きっとオレは。

◉12歳、24歳、36歳と進むこの物語。
もちろんあらすじもなにも知らず見始めるので当初「グレタ・リーさんちょっと歳いきすぎでは」など思うのだが、2段階のタイムジャンプがあると知り、あーそうかそれなら、となったりする。

誰しも、と言っておきたいが、誰しも「幼少のなにか」を秘めているものであり、そこは個人的持ち物なんで(オレも)恥ずかしいし秘め、飽くまで映画の構造メモ。

◉有り体に言えば過去の追憶とは「ロマンス映画の定番」であり非常にクラシックだ。この映画もクラシックで2012年描写の冒頭、ヘソンの《お父さんが食卓で新聞読みながら朝食を摂ってる》のを見て

「おい、任せて大丈夫かこの映画」

というくらいクラシックすぎる(類型的)演出に不安になったが尻上がりにこの映画は良くなる。
実際、中腹まではかなり難所で「24歳シーン」は言っちゃえばとても退屈だ。仕掛け的にも何もなく、なにをやってるの感・本人たちのジョブ描写がすくないので二人の実存感がたりない。この24歳がこの映画の弱点の一つだろう

◉12歳シーンの良さはとにかくラストカット。
彼らは二手にわかれるのだが、かたや「上昇」かたや「停滞」(ちょっとあがるが日常)だ。これはうまい。縦の構図で感情線を表している。また、この「上昇」はのちのポイントにもなるだろう

◉つまりこの「上昇」にこの作家の思想も出ている。海外、それも英語圏に出たことをよきこと、として表現しているわけだ。ここもポイントだろう

◉この作家に切り込むと、もちろんいいんだが「女性監督による作演だな」という感はある。
成人ヘソンの「ノラを思う感・慕う感」の実直さにそれを感じるし、言ってしまえばヘソンの描き込み(男性パート)は平坦だ。もちろんアーサーさんにも同じことが言えちょっといい人過ぎるわけだ。「12歳の私はあなたに置いてきた」は美しいセリフだが、やや上から目線のロマンチズムを感じなくもない。もちろん作品とはそういうものでいいんだが、ラストが1億点でなければけっこう突きたいポイント。

◉でも主人公ノラを聖女にしてないところにこの監督の誠実さがあり作品の格を上げていて、冒頭の「ヒソヒソ話」からすでに客観的だ

◉とくに「あちゃー」(映画的にいい!)と思ったのが「クリーンコリアン」のくだり。
24年越しの再会を経たのち、バスルームで夫と感想戦をやるんだ。これで目が覚めたよオレは。
そこにおいて英語でまくし立てるノラはもう完全に英語圏の女性なのだ。なにより時の経過、環境が人をつくる表現としてうますぎる

◉ここでもアイデンティティをツイストさせる。それが「韓国語の寝言」だ。夫は心の距離を感じるわけだがここでこの映画の深層、つまり「移民」もしくは「国際的ギャップ」そして「人生の夢と現実」が顔をだす。夫は言う「イーストヴィレッジの小さなアパート、この生活を望んでいたか」と。ここは流れ気味だがかなり重層的で素晴らしい
(イーストヴィレッジは充分アッパーだよとは思うがそれは小さな指摘だ、続ける)

◉そう、ここで12歳から続く彼女(=きっと監督自身)の「上昇」思考との差がいきてくる。名声や野心についてもこの映画は敏感だ。ノーベル賞、ピューリッツァー賞、アニー賞・・。ニューヨークに集まる夢追い人の心持ちを表し、またイーストヴィレッジってとこがいい線付いててすごくいいし、この上昇思考をいったい誰が否定できようものだろうか。それも「アニー賞」と口にする時、しばらく躊躇する(グレタさんいいね)36歳の現在地こそが切ない

◉つまりこの映画は「欲求不満」が覆っている。この時間への恨めしさ、大きな、どこか欲求の不満こそこの監督が裏に込めた想いだろう。
それがラストシーンに顕著に現れる。ラストシーンのグレタ・リーは明らかに甘い何かを欲しているから。もうこれ以上の言及は本当に野暮だが最高のラストシーンだ

◉このラストシーン
前世と現世の話がバーであるなか、ヘソンのここでの「来世」が本当にクル。彼は最高の◯切りを行った。横の構図。ウーバーまでの2分間。

◉past lives
邦題はパストリブス、ではなくパスト「ライブス」。この「ライブス」を深読みすれば過去の「実況中継」とも言える。「前の生活」ひいては「前世」、この英文のオリジナル題名は味わい深い。パスタもでてくる

◉おおかた吐き出せたかな・・
「エターナルサンシャイン」が劇中言及されるが本当に良質な別れが描かれているという点で「ブルーバレンタイン」であり戻ることのない追憶映画だ。

のちに調べると音楽は「ブルーバレンタイン」の音楽提供者とわかった。同意しかない。ここは監督のラブコール以外なく、あの作品が念頭にあったことに大いに頷く。