こたつムービー

ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポのこたつムービーのレビュー・感想・評価

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トーキーは初めて観たのでありますが、以前小説は読んでいたのでございます。朧げにお話の面白さだけは覚えている始末でございまして、はて、どこに仕舞ったかと書棚を探しても見当たりません。仕方ないので青空文庫を頼りまして再読したのでございます。
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というわけで観た、ヴィヨンの妻。
その勢い、原作短篇も再読。以前読んだ際の「面白ぇ!」という感覚しか残ってなかったがこれでクリアに。そんなで感想す。

この映画は冒頭から中盤までが面白い。
(あと15年前の作品なのでみんな若い)

で、その面白さは大谷(浅野忠信)のわからなさ/ミステリアスさ/しょーもなさが興味として保つからだ。始めにある程度の「見せ金」を示しその後踏み倒す!というのはさながらサギの常套手法であり、見てるこっちも笑えてくる。このしょーもない「ユーモア」こそがじつはこの物語の背骨なんだよね。

そんな原作のトレースを終える中盤以降(即ちオリジナル展開が始まって)からがトーンダウン。
恋の松ぼっくいな堤真一がでてきたり、実際の太宰を思わせる情婦(広末)が出てきたりするが一定の効果はあるが、それ以上でもなくなんか平板退屈よ。ミステリアスさの薄まる大谷描写は仕方ないにせよ、うーん。ね。

もっとも松たか子はちゃんとハイアベレージ。とくに米兵相手の娼婦から口紅を貰い受ける一連のシーンが白眉だ。伊武雅刀と室井滋もいい。

大谷は出会った当初のさっちゃん(松)の純粋さに惹かれたと語り、変わりゆく現実を嘆くわけだが、そんな大谷自身が一番自分が変わってゆくことに無自覚だ。いや、自覚的だからこそ「怖い」と泣いたのかもしれない。が、そんなインサイドはこの映画からは伝わりづらい。この点をちゃんと意識的に指摘できたらもっとシャープな作品になったろうに。

「桜桃」も読んだが、まあ、ホント最後を借りただけ。これ要る?ってかんじ。原作関連では「ヴィヨンの妻」と「きりぎりす」がダントツよ。青空文庫で読めますよ、おすすめです。