役所広司は、主人公である平山そのものだった。
ほかの誰もあの役を演じることはできないと思わせる、役と役者の圧倒的なシンクロだった。
毎朝定時に起き、淡々と支度をし、黙々と仕事のトイレ清掃をこなし、銭湯に入り、いつもの店で一杯ひっかけて、本を読み、寝る。
こうした平山の何気ない淡々とした生活を通じて、その日そのときを丁寧に生きる、あるいは世俗的な価値観に惑わされず自らの“世界の見方”を持ち続けるなど、いろいろなサブテキストを読むことができる映画だった。
しかし、個人的にもっとも共感できたポイントは、思春期真っ盛りな平山の姪、ニコの登場シーン以降だ。
ニコとその母親(平山の妹)により、彼の過去と今とのつながりがおぼろげながら見えてくる。
平山の淡々とした日常が揺らぎ始める。
そこに画面的、あるいは場面的な派手さはない。
しかし、平山が再スタートを切るきっかけだったことは見逃せない。
どんなことがあっても、誰の前にも道は拓けているし、日は昇る。
印象的なラストシーンは、そんな希望を示していたのではないかと思う。