青二才にはわかるまい。身も心もオジサンになってこそ理解できるのが『紅の豚』という映画の決定的な魅力である。
糸井重里による有名なキャッチコピー「カッコイイとは、こういうことさ。」からもわかるとおり、この映画はカッコイイという美意識について考えさせられる作品である。
主人公ポルコ・ロッソは、魔法により人間から豚に姿を変えられているが、そのずんぐりむっくりとした見栄えのみならず、中年男ならではの「むっつりスケベの風情」がそこかしこに感じられる。
女学生の集団がさらわれたと聞けば飛び起きて助けに行く。
女性の黄色い声援に上機嫌になる。
ホテルで女に話を聞かせてと声をかけられ、「今度二人っきりの時にな」と捨て台詞を吐く。
17歳のフィオに不意にキスをされ頬を赤らめる。
どれも中年のスケベ心ほとばしる言動で、正直に言うと他人事には思えない(口に出さないだけで、まあそんなものですよ、世のオッサンなんて)。
でも、実際にポルコが下世話に女に手を出すようなシーンはなく、むしろ強引に遠ざけるような態度をとる。これもまた「中年男あるある」すぎて心がソワソワするし、「ポルコはカッコイイな」と心底思ってしまうポイントである。
頭ではわかっていることでも、心が同じようについてくるとは限らない。長く生きていると、これが実に厄介なこととして感じられるのだ。
心のなかにはカッコ悪いこともたくさんあるのだけれど、それをそのまま表に出せば大人とは呼べない。ポルコの言葉を借りれば「(飛ばねえ豚は)ただの豚」に成り下がる。
大人は、数々の経験や艱難辛苦から、頭を駆使して理性的に振る舞う術を覚える。
もしかすると、この理性の本質は「やせ我慢」かもしれないが、その理性が欲望を1%でも上回ってさえすれば、立派な大人なのである。
そして理性は、プライドを生むのだ。
ポルコは、豚である自分にプライドを持っている。
そのことは、ジーナのホテルに、かつて人間だった頃の自分の写真が飾られていることへの不快感からも明らかだ。
お前もプライドを持って生きるんだな。と言われているようで、同じ中年男として大いに励みになる。ご同輩にこそおすすめしたい作品である。