試写にて。去年のパルムドール兼アカデミー作品賞ノミネートということでそれなりに期待していたけれど、マジでみんな何をそんなに過剰に絶賛しているのか全く理解できない……明確に"頭だけで"作られた映画。
謎を多く残した夫の落下死をきっかけに、裁判を通して夫婦生活の亀裂や妻の隠された本性が"解剖"されていく……と聞けば、なるほど面白い試みかもしれないと思うのだけれど、いやーー、これくらいの夫婦喧嘩なら誰でもするでしょ……夫婦っていうか、単なるカップルでもよくあることでしょ……あまりにもステレオタイプが過ぎて、ヤバい真相みたいな提示をされても、だからどうした……って感じだし。たとえば、『MEN 同じ顔の男たち』の方が幾分もそういった描写に誠実で、真摯で、新しかったか。
だから「よくあることでしょ……」な情報の応酬を、なんの工夫もない顔の切り返しの羅列で見せられても、どうでもいい、と呼べるくらいには退屈だった。
いや、これはどこにでもある、誰にでもある普遍的な夫婦の関係性を描いているんですよ、と擁護されたとしても、だからそういった普遍を演出によって"超越"したかのような瞬間を見せられるのが"映画"でしょ?と反論したい。何もビックリもサプライズも無い法廷劇に2時間半は長すぎ。
検察側もアホみたいに露悪的に描かれ過ぎていて、どうにかして主人公を悪女に仕立て上げようと奮闘するのだけれど、マトモな神経と倫理観が備わっていれば「コイツ何言ってんの」と分かる通り、一度も主人公を境地に陥れるような作劇に成っていない。ちょこまか動き回るだけで、全く演出にもなっていないし。
作り手がミステリー、もしくは法廷サスペンスを"作劇・演出"出来ていると思い込んでいるけれど、単に法廷で台詞の応酬を撮れば映画になると思ってしまっていることが、一番この映画を信頼できない所以かもしれない。その油断は漏れなくカメラワークに表れていて、急にズームしたり望遠でやたらと動かしたりして演出した気になっているのが心底バカバカしい。前述したように、ショットというものへの確信が全く無くて、単なる顔と顔の切り返しばかりなので、本当にどうでもいい。
盲目の息子の描写も、これではあまりにも"盲目"ってのが設定に過ぎなくて、何らかの障碍をこんな風にしか描写できない映画監督には心底落胆するし全く信頼できない。単に「盲目の息子が目撃したものとは……」みたいなキャッチさが欲しかっただけでしょ。
裁判が終わってからの時間は、ここで終わるはずが無いよな……!と、逆にめっちゃヒリヒリしながら観てしまった。そして、結局何も起こらないし、なんとなく終わる。物語の終わらせ方に敬意が無い映画作家なんか大嫌いだ。そういう眼差しが登場人物たちを傷付けていることに無自覚で、見守ってあげた感だけがあるのが心底腹立たしい。
とは言え、ワンちゃんである!犬に加点!この犬の名演にパルムドールあげたんじゃないのと皮肉が書けるくらいには素晴らしかった。でもまあ、犬を飼っている身としては、超観ているのが辛かったですが……(犬が死ぬとかそういうことではありません)(犬が辛い目に遭っているからこの映画が嫌いというわけでもありません)
あと『TAR / ター』の方が100倍面白い……
これから始まる松本人志の裁判を思うと、マジで最悪な気分になる。