カリカリ亭ガリガリ

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビーのカリカリ亭ガリガリのレビュー・感想・評価

4.6
香港ノワールの如き、追い詰められた男たちの最後の足掻きが切なすぎる。本作の便宜上の主人公はもちろん、ちさととまひろなのだけれど、自分にはどうしたって敵役となっているゆうりとまことの兄弟が主人公の物語にしか見えない。

『パラサイト 半地下の家族』じゃないけれど、前作で貧困の中でプロの殺し屋として活動する二人が描かれた末に、その更に下の階層にいるバイト貧困層・負け犬たちを主軸に持ってくるという、そのエンタメ的な正解。「正社員になりたい!」という現代日本を生きる若者のガチの叫び。冒頭の「青は遠い色なんだよ」からして泣ける。曇り空の下で生きる二人が目指した青空。遠すぎる青空。そんな二人の前に立ちはだかるラスボス的存在にちさととまひろを配置させるのもうまい。

兄弟をサポートする仲介役の赤木さんってオッサンも、どうしようもない人なのに「本当にこの二人には幸せになってもらいたい」という想いが溢れていて切ない。兄弟が旅行の話する時に赤木さんも入っているのがヤバい。
定食屋のシーンはすべて良かったけれど、「定食屋のメニューには800円、900円、1000円の壁がある理論」に、悔しいけど俺は分かる〜〜でしたよ。阪本監督、ちゃんと貧乏を経験している(笑) 観客への眼差しがマジで誠実。そして定食屋で見せる高石あかりの殺しの視線、流石である。

アバンタイトルの狭い部屋を駆使したアクションからして最高にフレッシュだったけれど、銀行強盗撃退シーンもまた新鮮な驚きに満ちていて(固定電話ヌンチャク!ファイル顔面パンチ!)、ラストの伊澤彩織 VS 丞威に至っては惚れ惚れ。アッと驚くハッタリの見事さ。よく思いつけるな(アクション監督のアイデアらしい)。まひろが負ける……?!という展開をああいった処理の仕方で提示しているのもすごい。天才。アイアンマンみたいな顔面ショットがある着ぐるみ大喧嘩も可愛かったてす(それを目撃する子どもたちの目線が挿入されていたら加点)。

前作がカルト的な人気を得たせいなのか、伊澤彩織が前作よりも明らかに自信をもって活き活きとデフォルメを増していて、ああ、俳優本人の自信と役柄が合致してない〜と思う節が多々あり……それはそれでまひろの成長としても捉えられるのかもしれないが。
「じゃあ結婚しようよ?!」からの「わたしに賭けろよ、杉本ちさと」はプロポーズすぎるぜ!(『花束』パロディも、ギャグなんだけど二人にとってはちょっと切ない雰囲気があって、良い……)
高石あかりは相変わらず上手い。賭け将棋に挑むアホ演技と、賭け将棋後の絶叫のショットに笑った。
アホなのに、銀行で彼女が殴られたとき、観客がちゃんと「あ!ヤバいことになる!」と思えるキャラなのが素晴らしい。

結局、敵役の神村兄弟が主人公として魅力的すぎて、それはつまり敵役としては機能していないし、本来の主人公であるちさととまひろたちの行動もカタルシスにならない。
掃除屋・田坂さんが「やっちゃっていいっすよ。ぐっちゃぐちゃにしてください」って言うのはアツい展開なんだけれど、その対象が神村兄弟なので、単純なカタルシスには繋がらない。絶えず観客の感情を揺れ動かして、この闘いには善も悪もないことを提示して、虚しさだけが残ることを予感させる。

まるで『仁義なき戦い 広島死闘編』のような余韻。青春の終わり。それこそ、香港ノワールのような幕切れ。アンチカタルシス。まひろとちさとにまた会えて嬉しい〜とぬるま湯で歓喜している観客へのボディブロー。それを2作目で選んだ監督、やはり"分かっている"。

ラストバトルで二人が交わす「おはよ」。
バトル後の会話。あれはマジで"青春"だ。

最高の幕切れに対してポストクレジットが長すぎるのと、いくら何でも早く流れすぎるエンドロールが惜しかった。が、あれくらい描かないと3に切り替えられないか……。
ということで、3も楽しみ!!