つかれぐま

落下の解剖学のつかれぐまのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
24/2/28@UPLINK吉祥寺❸

ある不審死を「解剖」して客観的事実を見つけようとしたが、浮き上がったのは主観的考察のみという話。夫婦や親子という当事者の主観100%の領域に他人が土足で踏み込んだところで、そうなるよな

私事ながら長く共稼ぎ子育て夫婦をやっていたので、主人公夫婦には共感というか身につまされた。パワーバランスが、妻>私という点も含めて☺。本作のように息子が障害を持っていたら、自分達も間違いなく機能不全に陥っただろうな。そんな説得力が十分だった。

この夫婦の敗因は、何ひとつ諦めなかったことじゃないかな。仕事、子育て、パートナー関係(含むセックス)。全てが上手く回って初めて成功するような「完璧な共同体」を目指すから、何かひとつ歯車が狂えばガタガタになる。本作の場合は息子の事故だ。以降は何をやっても中途半端に。閑話休題。

今年のアカデミー主演女優賞は、リリーvsエマの一騎打ちかと思っていたが、本作のザンドラ・ヒュラーも凄かった。悪人にも善人にも見えるが、絶対に安易な共感を寄せ付けない佇まい。その白眉は評決後の(個人的には許しがたい)振る舞い。結局彼女は、何かを人に「与える人」にはなれない。常に自分の利得の為に動いているのだなと合点がいく。冒頭のシーンで学生に逆インタビューしているのもそういうことか。

そんな佇まいが昨年の大傑作『TAR』に似ているなと思った。違いは監督が女性(TARは男性監督)という点。興味が湧いて評論家のレビューを漁って見たところ、男性評論家が絶賛の一方で、女性評論家はわりと冷めモードだった。その眼力の優劣はさておき、女性監督が(より男性受けする)ソリッドで冷たい温度感の作品を撮ったということには、とても大きな意味があるのではないだろうか。監督が自分の「女性性」を武器になどしていない、その証左に他ならない。障害児や盲導犬という弱者への容赦ない演出も、かなり攻めていた印象。

グレタ・ガーヴィクがアカデミー監督賞にノミネートされなかったことが騒がれたが、本作のジュスティーヌ・トリエはノミネートされたことも併せて報じて欲しかった。