健一

落下の解剖学の健一のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
氷結のとき。




第76回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞。
第96回アカデミー賞 作品賞他計5部門ノミネート。

いかにもカンヌが好きっぽい静かな衝撃作。
ジャケを見ると「ファーゴ」を思い浮かべてしまうのは私だけでは無いはず。
Filmarks内でもかなり話題になってますね!
観て来ました。😁

決してつまらなくは無いがカンヌ、アカデミー賞などで受賞&ノミネートされているせいか否応なしにも見る前の期待が高まり過ぎてしまった感はあった。😅

ドイツ人の妻とフランス人の夫。
そして11歳の息子。彼は4歳の時に不慮の事故でほぼ視力を失っている。
ある日 息子が家の前で頭から血を流して死んでいる父をみつける。
一体何が起きたのか分からない残された妻(母)と息子。
次第に警察は頭部に殴打された後があると判断し『これは他殺ではないか?』と妻を疑い始める。
妻は友人の弁護士を雇い無実を晴らす苦しい日々をスタートせざるを得なくなる。

約10年前 私の親戚の叔父が突然亡くなった。
お風呂に入っていたのだが、数時間経っても出てこず、不審に思った叔母が浴室に見に行くと風呂に浸かったまま亡くなっていたそうで・・・
警察に通報し数分後に到着した警官はその場で叔母を事情聴取し『夫婦仲は円満でしたか?』や『最近大きな夫婦間でのトラブルは?』などいかにも叔母が叔父を殺めたかのように質問してきたそうだ。
質問が続くにつれ さすがに叔母も激怒し『もしかして私が殺したと思っているんですか?😡』と声を上げたらしい。
しかしこれは通常の職務質問で『原因不明の突然死』が発生した場合、警官はどうしても失礼とは思いつつ その場でこのような質問をしなければならないらしい・・・


さて本作 ネタバレあり。


まるでドキュメンタリーを見ているかのような とんでもない緊張感。
劇中の音楽もほぼ排除し観客は『あたかもその場に居るような』張り詰めた緊迫感をこれでもかと味わえる。

妻は夫を本当に殺したのか?
それとも自殺なのか?
他殺なら理由は 何故?
自殺なら理由は? 何故?
観客はその 解剖学 から一瞬も目が離せなくなる。
そしてその結末に・・・

これは安堵なのか? 安心感なのか?
   達成感なのか? 日常を取り戻したのか?

鑑賞後にどんどんと余韻と自分なりの解釈が膨らんで行く・・・
そう思わせている時点で この作品 は成功したと言ってもいいのでしょう。
爽快感は全く無いのだが、無償の幸せを願う自分もいる。
なんとも不思議で奇妙な作品だった。

7年前に日本でも公開された「ありがとう、トニ・エルドマン」でも好演を見せ 本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラーの圧巻の演技が本作が成功した最大の要因。
この役を非凡な女優が演じていたら恐ろしくつまんない作品になっていただろう。
ザンドラがたった一人で作品を支えているといっても過言では無い。

劇中のスコアが無く 淡々と進む150分なので少々『中だるみ』は歪めないのだが終盤の裁判での『夫婦間の口げんか』の録音を聞くシーンは最大の本作の見せ場で それまで溜めてきた感情を一気に爆発される名シーンとして深く見るものの心に浸透してくる最高の演出。
ちょっと「マリッジストーリー」をパクったような演出だったが。😅
あのシーンが全てのモヤモヤを晴らしてくれる見事な終盤だった。

ホントに・・・無実なのか?
上手く・・・ 逃れただけ?
なんかギクシャクするままエンディングを迎える。

疲れ果てた彼女の横に愛犬が駆け寄り添い寝する。

彼女は『至福のとき』を得たのか・・・


真実は雪の中に覆われ、
春には溶けて.......消えて行く。



2024年 2月29日 10:45〜
Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下 (9F)
💺187席
客入り 50〜60人くらい。

今日は うるう年。
4年に一度の日にこんなスゴイ作品と出会えたなんて!
至福の日‼️ ☃️
健一

健一