してぃぼ

落下の解剖学のしてぃぼのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.9
雪山の山荘で作家の男性が転落死した。現場に居合わせたのは視覚障害の息子だけ。はじめは事故と思われたが、現場検証や捜査を進めていくうちに同じ作家でもある妻に殺人容疑が向けられる。

序盤の本格ミステリ的展開から打って変わって、中盤以降は決定的な証拠が見つからないまま、法廷劇と家族の関係性や過去が明らかになっていくストーリー。

自身の不倫や息子の事故を発端とした夫との激しい口論の音声動画が発見されたが、息子がふと思い出した父との記憶に基づいた証言(解釈によっては自殺を仄めかすような内容であって、主観的な内容にすぎない)もあってか、陪審員による審判の結果無罪になったサンドラ。面倒を見ていた女子大生が直前に息子に語った「迷った時はどちらに進むか決める」と言うのも意味深。サンドラは夫を殺害したが、息子が自分の生活を守るために記憶を引っ張り出した可能性。「ママが帰ってくるのが怖かった」というのはそう意味なのかも。夫は自殺したけど、母親にそばにいてほしいから無い記憶を息子が作り出した可能性もあるのかなと思ったり。勝訴終わりの打ち上げで日本人の感性ではありえない盛り上がり方だったし。

結局この映画は、ずっと確かなことがないまま進んでそのまま終わるので、観ている側が何を信じるかで捉え方が違うよな気がする。そしてひいてはそれが、私たちが持つ「偏見」や「先入観」に対する皮肉のようにも感じる。

「重要なのはそこ(夫を殺したか)ではない。君がどう思われるかだ」という弁護士の台詞が刺さる。「P.I.M.P」歌詞はさておき曲としてシンプルにカッコよかったです。
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