想像を絶する冒頭から始まる本作。何の液体の中かと思いきやまさかのボウ誕生の瞬間。母親が叫ぶシーンからも障害を持って産まれてきたことが分かる。彼が日々感じる妄想や生きづらさが時に激しく、時にコミカルに描かれる。昔話風の世界に没入したシーンは、子供どころかろくな性交渉もなくこの年まで来たボウの後悔の表れか…
エレインに初めて恋心を抱いた時も引き剥がされたボウ。ラストまでは母親の独りよがりな偏愛がボウの生き辛い人生を生み出してしまったのかと思いきや違った。
飛行機に乗れないと知るや否や、37年間支えてきた侍女を偽装してまで殺害。ボウを轢いた金持ちの夫婦、襲った人間たち、それまでの一連の流れは全て母親による作られたストーリーだった。(母親の絵画がキャストの集合写真で作られていたのは鳥肌)
ラストの審判は母の憎しみがこれでもかというくらい込められていた。性交渉後に夫が亡くなったこと、残した子供に障害があったことに対する苦労、芽生えた憎しみの感情が全部罪のないボウに向けられていた。
爆破されたボウを見届けた観衆が何事もなく帰宅していく様は、まるでこちらにも刃物を突きつけられている気がしてならなかった。
アリ・アスター監督の作品を観て「胸糞」「狂気」とか思うけどお前らじゃあこれを観て何も思うところないの?と言われているかのようだった。だからエンドロールが流れている途中で帰る人たちを見てちょっと驚いた。
男根怪物は思わず笑ってしまったが、本当に欲望までも抑え込まれていたんだなと思うと悲しくなった。過去最大級に痛烈な母性批判の裏側には何が。ちなみにアリ・アスター監督のお母様はこの作品を楽しく拝見したとのこと。
舞台のアニメーションのシーンは、「オオカミの家」の監督2人が入っているらしい。次作もなんと、アリ・アスター監督×ホアキン・フェニックスだそうでこれまた楽しみ。
心身に莫大なダメージを与える作品でした。