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落下の解剖学のねーねのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.2
真っ白な雪に囲まれた山荘で起こった、ある男の落下死事件。
妻は才能にあふれる作家、夫は作家を夢見て挫折した主夫、そして視覚障害をもつ一人息子。
夫婦喧嘩の絶えなかったその家で、妻は第一容疑者として疑われることになる。
誰も知らなかった夫婦の真実が、裁判の中で徐々に明らかになっていく。

予告編とはだいぶ違う内容だったので、途中までは「本格サスペンス」と思って鑑賞していた。
しかしこの長い150分間を通して、これはどこまでもシンプルな法廷劇のリアルであることに気づかされた。
皆が見届けるのは、真犯人の追求でもなく、事件の真相でもない。
ただ、「こういう事件が起こった。疑わしい事実は確かにあった。夫婦の仲には亀裂が入っていた」。それだけのこと。
これが現実なのだと思う。きっと。

本当は、やはり彼女が手をかけたのかもしれない。でも、もしかしたら自殺かも。
しかし何も裏付ける証拠がなければ、それはすべて「事実の羅列」として過ぎ去っていくのみなのだ。
だからサスペンス映画ではなく、「落下の解剖学」。
あらゆる角度から事件を解剖し、俯瞰し、吟味し、推測するのが裁判というものである。
それをよくあらわした、とてもスマートなタイトルだと思った。

仲の良い夫婦と思われていたふたりのいがみ合う姿。
裁判が進むにつれ明るみになる、耳を塞ぎたくなるような夫婦喧嘩。
社会的に成功した妻と、それを羨みながらも反抗できない夫。圧倒的な強弱関係。
多様性、ジェンダー論、男女平等と騒がれる世の中だが、やはり男は妻が自分よりも優秀な人生を歩んでいることに嫉妬してしまう生き物なのだろうか。
彼の死の真相はわからなくても、現代における夫婦関係、男女関係の複雑さが垣間見えた気がした。

夫婦の関係に気を病んだ息子が実は父を殺してしまった説も考えていたけど(愛犬にアスピリンを飲ませる時点で、だいぶ精神的に正常ではないのではと感じたため)、裁判終盤の彼の表情を見て、その線はないかなと思いなおした。
この事件はもう解決しないことはわかっているけど、それでもなお真実が知りたいと思ってしまう私は、もうすっかり映画脳に染まってしまっているようだ…

※かなり静かな長時間なので、眠くないときに観るのをおすすめ。私は少し寝ました…
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