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落下の解剖学のinazumaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.6
観ているときよりも、鑑賞後に振り返ったり解説や解釈を読むことで面白さがどんどん膨れ上がっていくタイプの作品でした。めちゃくちゃ大好物!

152分間ほぼ全編にわたりセリフの応酬が続く。特にクライマックスともいえる法廷シーンはセリフ量がとにかく多いうえに速くて、字幕を読みながらなので目と頭が混乱しそうと思ったのですが、これが全然疲れなくてスイスイ見入ってしまう。証拠物を武器にセリフで戦う、文字通りアクションシーンとして観ることができたので、ダレることもないし全く長く感じませんでした。特に終始憎たらしいハゲ検事のセリフ回しはお見事。小説や音楽といった"作品"をもってその作品の特徴やメッセージ性も織り交ぜながら論じるところはベストシーン。ムカつくけど、この検事好きだ。。ここで本作の肝でもある"ある音楽"のメッセージについて言及したときに入る"ある突っ込み"には思わず嗤った。突っ込みといっても真っ当な意見に変わりないのですが、それゆえに面白いし、あんなテンポ良く言われたらもう抱腹絶倒です。監督もここは完全に狙ってたでしょ。真剣なシーンでサラッとこういうの入れてくるのって巧いというか技術がすごいと思うし、こっちも得した気分になります。
この法廷でのクライマックス中に入るもう一つのクライマックスである"録音映像"は何ともいえない恐怖を煽られました。録音内容から、誰のかも分からない「イメージ映像」が挟み込まれるのですが、どこまでが真実でどこまでが想像なのかが分からないところが超怖い。サンドラとサミュエルの表情、距離感、動き、居る場所、"何かを叩く音"…すべてが分からず、確実に真実だと分かるのは二人が抱える心情のみ。サンドラの小説からサンドラの人間性や事件の考察する検事やメディアもそうですが、こうやって真実と嘘の境目をうやむやにしてくる演出は、観てるこちら側も作品世界に巻き込まれてるような感覚になって楽しいです。現実と地続きなエンタメ映画こそとてもスリリング。

素晴らしい役者が揃ってますが、なんといってもダニエル&スヌープ🐶!
ダニエル役のミロ・マシャド・グラネールの演技の上手さは異常。終盤にあるスヌープとのある戦慄のシーンは『イノセンツ』で嫌という程味わった「子供の無垢であるが故の暴力性」が恐怖を誘うし、「こんなことしなきゃ良かった」と泣きじゃくるダニエルには気持が分かると同時に恐怖も倍増。異常に演技が上手い子役、雪、法廷、家族問題と是枝作品の『三度目の殺人』が連想されましたが、現実にある問題を扱うとき物語を安易に分かりやすく着地させないところは共通してると思いました。それにしてもこのシーン、、スヌープは本当に大丈夫なのかと尾を引いてしまいました。ハネケの映画が過る強烈さですが、監督曰く安全に十分に配慮したとのこと。メイキングがみてみたい。

静かにむかえる驚愕のラストカット。
恐怖とともに解釈の余地がどんどん広がる最高のラスト。どこかにヒントが隠されているかもしれないので、また何度も観たい。

📖パンフレットの感想📖
真っ白で表紙に謎のプチ工夫あり。"小屋"を上から見た図にもみえるので、落下中の人の視点を表したのか?このシンプルかつシュールなデザインが最高です。コラムが4つぐらいあって内容も充実してますが、もう家に飾っとくだけでもいいぐらいの良きデザイン。
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