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落下の解剖学のdm10foreverのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3
【オオカミ少年】

今、世間を騒がせている「水原一平」という一人の男。
彼の犯した過ちは、単に「身の丈に合わないギャンブル癖」や「ビジネスパートナーの預金を不正利用した横領(窃盗)」には留まらない様相を呈している。
彼が今までついてきた数々の嘘に振り回された人々は「一体何が真実で何が嘘なのか?」と野球ファンのみならず、一般の方の関心度も非常に高い一件となった。
(ちょっと前の「ショーン・K事件」を思い出したりして・・)

では何故、こんな「あからさまにバレそうなこと」が白日の下に晒されることなく、世界のトップたちは彼を10年以上も信用してきたのか?
それは「今こうしてここにいるんだから疑う余地がない」という単なる思い込みに他ならない。
もし何かあったなら、ここまで登り詰めることは出来ないだろうから・・・という安易な妄信。
・・・でも、それを持って誰も「信じた人」を責めることは出来ない。
何故ならその「(形のない)信用」によって世界の大部分は動いているから。

目に見えるものが必ずしも真実とは限らない。

人間はある種の予断を持ってしまった瞬間から、今自分が見ているのは「実は物事の断片でしかないのもしれない」ということを深慮もせず、それこそが「事の本質だ」と勝手に思い込んでしまう性質を持つ。

Filmarks上のジャンルでは「ドラマ、スリラー、クライム」となっているが、ある意味「笑えない悲喜劇」的な要素も含んでいたような気すらしてしまう今作。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」とはよく言うが、同時に「他人の不幸は蜜の味」という言葉もあるように、赤の他人からしてみれば真実なんかはどうでも良くて、ただ「どう見えるか(どう見えたか)」の行く末を楽しみたいだけなのかもしれない。
続きはネタバレも含む故、フィルターをかけてグルノーブルの法廷にて審議いたします。
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