七月

関心領域の七月のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.7
予習として読み直した新版『夜と霧』にこんな文章があった。
「…収容所の監視者の多くが、収容所内で繰り広げられるありとあらゆる嗜虐行為を長年、見慣れてしまったために、薬の服用量がだんだん多くなるのに似て、すっかり鈍感になっていた、ということだ。この鈍感になり、心が干乾びてしまった人びとの多くは、すくなくとも進んでサディズムに加担はしなかった。しかし、それがすべてだ。彼らはほかの連中のサディズムになんら口をはさまなかった。」(『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル/池田香代子訳)
映画で描かれるヘス家(特に妻)を見たときに感じたのがこれだった。序盤の夜のシーンでは音を気にしているような表情もあるのだけど、徐々に部屋で一人で熟睡するようになって、「無」というよりも「鈍感」とか「麻痺」なんだなと思った。子どもが不安定だったり客が逃げ帰るような異常さをちゃんと感じていて、それでも利己的な欲求のために鈍感になっていく。もちろん彼らには大戦前からある承認された差別意識と社会体制の積み重ねもあるのだけど、時間が経つにつれて当たり前になり、鈍感になっていくのは、日々災害や戦争の報道を目にしている自分の姿でもあって、人間が陥りがちな挙動をこれ以上ないくらいわかりやすく描いている。
陥りがちなものをどう乗り越えていくかがこの映画の問いなのだと思う。

直接的な描写はないけど、音だけじゃなくてなにげなく映されるものやセリフにもグロテスクさは表現されているので、情報量は思ったよりもかなり多かったです。長回しのシーンが多くて30分くらい短くできたんじゃないかな!?と思ったけど、急に放り込まれるとギョッとするし、それを狙ってるのかもしれない。
七月

七月