同時期の石井監督作品の「月」と通底しているテーマは「見ない」ことだと思いました
こちらの作品では、映画界に蔓延る因習であり、人間が食べるために何千頭と殺されている牛がいる事実、マスク警察に見る独りよがりの正義感の暴力、マスクの国民配布やコロナ助成金支給による国の政策の歪み、詐欺事件の若い受け子のみがトカゲの尻尾のように切り捨てられることであり、これらは我々がそんな物であるからと、あえて見ないで関わらずいようとやり過ごしてきたことかもしれません。
それらの理不尽さに対する怒りや不器用に適応できない人間を松岡茉優さん演ずる若手映画監督である折村花子、窪田正孝さん演ずる食肉工場で働く館正夫が前半の映画制作を中心としたストーリーを演じます。
日和るプロデューサーのMEGUMIさん、セクハラまがいの映画界のルールをわからせようとする三浦貴大さんが好演しています
後半、家族を映画にしようと父である佐藤浩市さんのところに帰ってきて、兄の池松壮亮さん、若葉竜也さんの家族と再会するのですが、皆さん素晴らしい演技でした。そして、父が理不尽さに対する怒りを表して事件を起こしていたこと、母の失踪の顛末について兄妹が知ることとなります。
人の行動や物事が起こることに、理由などないことがある。人間はそれほどわかりやすいものではない。理論的ではないのが人間であることが描かれているように感じました。
そして父の生き方、母との関わりなどを知り、妹が物事に不器用に対応できなく、怒りを表すことに、兄2人も感化されていきます。
テーマに対して、脚本として切り込み方がシャープかと言えば、そうでもなかったかもしれません。でも、松岡茉優さんが素晴らしかったことと、相変わらず、池松壮亮さん、若葉竜也さん、佐藤浩市さんの演技があまりにも素晴らしかったので、やはり感動しました。
それ以外も趣里さんをはじめ、錚々たる役者さんが出ており、なかなかの無駄遣い感もありました。
人は演じるものです
