悪魔の毒々クチビル

仮面ライダー555(ファイズ) 20th パラダイス・リゲインドの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

4.6
「誤魔化してる?」「ああ、誤魔化してる」

「仮面ライダー555」から20年後の世界を描いたお話。


ガラケーで変身するライダーでお馴染みファイズの放送20周年を記念した続編。
俺は正直仮面ライダーシリーズ全体に対しては思い入れはそこまでないしもう最近のライダー全く分からないんだけど、このファイズは唯一リアルタイムで観ていた本当に大好きなライダーでして。
後にアギトとかカブトはレンタルで取り敢えず一周したけど、大人になっても見返すのはこのファイズだけ。
もしかしたらファイズロスが20年続いていたのかもしれない。
それが20年の時を経て他のライダー作品へのゲスト出演でなく、「仮面ライダー555」として新作が作られるなんて中々無い事だろうしファンとしてはまず感謝しかありません。
そんな訳で初日に舞台挨拶付きの上映会に行って来ました。何気にこう言うの自体初めてでした。

結論から言うと所謂「俺は好き」タイプの内容で、賛否両論あるのは間違いないかと思います。
まず上映時間が60分程度と非常に短い。最初は「え、何でこんな短いの!?」とびっくりしましたが、どうやらVシネ系の仮面ライダー映画って基本的にこのくらいの尺がメインのようですね。
だからTV版最終回で気になったアレとか一部のメインキャラのその後は触れられず、やきもきする箇所はあるかと思います。
その反面、今作は主人公である乾巧とヒロイン園田真理にガッツリ焦点を当てており「仮面ライダー555」と言う視点から更に狭めて、二人の物語と考えると結構内容はあるかなと。
巧が真理に弱味をあれだけハッキリ見せる場面とかはこの年月の経過ならではだと思いますし。


ファイズに出てくる怪人オルフェノクって、元々は人間であって何らかの理由で死んだ人間の一握りがオルフェノクとして覚醒するんだけど、怪人として力に溺れるか人間性を保つかの葛藤ってだけでなく、人間でありたいのに怪人と言う変えられない事実に苦しんで生きる、みたいな色々な感情が怪人側にもある作品でそこもまた魅力なんですよね。
今回もまた、とあるオルフェノクの「人間でいたかった」という台詞がとても悲痛で。

そして20年経っているからであろう、ファンの人がオリジナルキャラ達に求めるモノと言うか、「◯◯はこんな事しない、言わない」と言ったようなキャラ像や展開像をかなり壊しかねない描写があるのも印象的でした。
特に中盤のとある展開は俺からしてもかなり衝撃で、「うわマジか…」と。ただ、TV版を踏まえると決してあり得ない訳ではなく納得は出来る範囲内での攻めだったので、ここのギリギリは個人的に上手く攻めたなと思えました。
あと本編で死んだ筈の草加雅人や北崎望がしれっと生き返っていた理由は、まぁ皆が想像するであろうアレなので別に驚きはしなかったです。

元々ダークな作風でしたが、今回そこも更に踏み込んでいて例のくだりから発展するあのシーンは、まさにファイズだから、もっと言うと20年後のファイズだから出来る演出だろうし、直接的な描写は無くとも木っ端微塵に弾け飛んで血飛沫撒き散らしながら死ぬ人がいたりとちょっと作風は小説版に寄せている所もありました。
そんな中でも人間として生きる道を選んだ海堂さんは相変わらずコミカルなキャラで、オルフェノクに変身して戦っている時もラー油で相手の足を滑らせてピンチを逃れると言う良い意味で怪人らしからぬ行動がより強調されていました。て言うか演じた唐橋さん、絶対アドリブ多かったよね。

時代も時代って事で今作からファイズもカイザもガラケーじゃなくてスマホで変身するようになってデザインも一新されたんだけど、まぁそっちの見た目も割と良かったです。
ファイズのアクセルフォームも大分スタイリッシュになっていて、一応大人気必殺技のアクセルクリムゾンスマッシュも健在ではあります。
まぁ旧デザインのガジェットを取り出す”チャッ”て音とか、ああいうのが無くなってしまったのは寂しいけど。
カイザはね、演じた村上幸平さんも語っていたけどゲスト出演こそ過去にあれど変身シーンは20年ぶりでやっと草加の変身が観られてそれだけで嬉しいよね。あの変身後、手で首に触れる動作も最高。
ファイズもそうなんだけど、変身後の手癖も魅力ですよね。巧が変身するファイズは、よく手首をパッパッとスナップさせるんだけどこれが子どもの頃から大好きで、自分でも真似してやっていた結果今でもたまに手首スナップさせる癖が残ると言う。
デルタも劇場版に出るのは初だったので、出番は少しだけど嬉しかったです。
欲を言えば北崎デルタが見たかった。

草加と言えば真理への歪んだ愛情とオルフェノクに対する憎悪が印象的な腹黒ライダーで、当時は一応ヒーロー側ながら視聴者だけでなく真理を演じた芳賀友里亜さんからも最初は嫌われていた悲しき人物ですが、今作では猫かぶっていた期の草加要素が多めです。が、それでも真理と付き合えないのはやはり運命なのか。
最終的にはちゃんとあの憎たらしい草加スマイルも出てきます。もうここまで来るとこっちも笑っちゃうよね。

新ライダーのミューズもまぁ、変身者の玲奈のヤンデレ感ある一方で変身を恥ずかしがるキャラは割と受けが良いんじゃないでしょうか。

無愛想な巧に「お腹痛いんですか?」とかあの人のカメオ出演とか細かい演出でファンはニヤリと出来るかと思いますが、やっぱラストバトルのアレはね、泣くよね。あそこは完全に古参を泣かせに来てるよね。もう戦闘力のバランスおかしくね?って言う突っ込み所もスルー出来ちゃうよね。


舞台挨拶では主演の半田健人さんや村上幸平さん、芳賀友里亜さんを始めとした監督含む面々によるトークも良かったですし、何より自分が小学生の頃TVで夢中になって観てきた方々を生で拝めて感無量でござんした。
村上さんによる草加の名台詞「俺のことを好きにならない人間は邪魔なんだよ!」をコール&レスポンス形式でやったのも楽しかった。
ラストシーンの後半はキャスト達のアドリブだったようで、まさか使われるとは思っていなかったとの事ですが20年と言う時を経たからこそ、アドリブで温かく終われたのではと思えて尚良かったです。
因みに台本ではその前のスマートブレイン社でのアレがラストだったそうですが、何故変えたのかと質問に対して「◯◯で終わると後味悪いから」と答える監督に一同大爆笑でした。
芳賀さんが草加に抱き締められたシーンの翌日に体調崩して撮影休んだエピソードもめっちゃ面白かったし、半田さんの何よりもファンを大事に思うコメントも凄く嬉しいと言うか、こちらこそありがとうございました。な心境でした。

やっぱね、どうしてもアレよコレよと求めてしまう物は各自色々あるでしょうし、そこの期待全てに応えられたとは言えないんだけど、より的を絞って描かれた巧達の物語は60分と言う短さの中では充分な内容でもあったと思います。
改めてファイズ好きで良かったなと思えましたし、今でもキャスト陣がファイズに対するアツい想いを抱いてくれているのもしっかり伝わって来てとにかく自分の中では特別な作品となりました。