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亀も空を飛ぶのBaadのレビュー・感想・評価

亀も空を飛ぶ(2004年製作の映画)
5.0
毎度の事ながら、京都シネマは過剰と言っていいほどに音響が良く、映像以上に戦争の音をたっぷりと体感してきました。前2作以上に物語が作り込まれているのにきっちり演出されており、力のあるシーンが続きます。

これもいつもの事ながら、あまりに悲惨なことが描かれているのでつい見落としてしまうのですが、ゴバディの映画では年齢を問わず重要な役を演ずる男性はいつも例外なく驚くほどやさしくて、過酷な状況の中でもそこが福祉の整った北欧諸国でもあるかのように、身内の子供や女性を守るために冷静に理想主義的に行動するのです。それに反して女性や子供は当たり前のように現実に流されて生きています。

毎度ながらの過酷な状況設定でつい見逃してしまいますが、今回の映画でも二人の少年の行動にそれが表れていて、この監督における登場人物の愚直なまでの優しさというのは実に骨太な作家性につながっているのだとようやく気づきました。

前作に続いて、ハラブジャがキー・ワードになっていますが、そこに描かれているのは毒ガスによる虐殺の被害ではなく、普通の戦争の過酷さです。
このへんの戦争に関する描写は細かいところを見ればツッコミどころはたくさんありそうで、その原因はまたしても検閲コードかな?とも思うのですが、そうではなく、テーマを鮮明にするため、という別の配慮が働いたのだと思いたい。それ以外の部分では舞台が国外と言うことで、普通のイラン映画よりは自由な表現がなされているようです。

この映画の物語については多くの方が既に語っていらっしゃいますので今更付け加える事もありませんが、それ以上に目を見張るのは細部の表現の的確さでした。特に、パラボラアンテナを巡るいくつかの場面では、この地域におけるメディアの在り方が実に鮮やかに表現されていました。たった数分の映像がイラク戦争について垂れ流されていた多くの報道総て以上のことを物語っていました。それだけを見るためにだけでも映画館に足を運ぶ価値があります。

このあたりのシーンはぜひソフト化されたら学校教材として部分的にでも子供達に見せて欲しいと思いました。

見てそろそろ一週間になりますが、まだ印象がまとまりません。
邦画の『ニワトリはハダシだ』と並んで、今年公開された映画の中では出来るだけ多くの人に見て欲しい映画です。

なお製作国は、イランです。
この映画の場合重要な情報なので、訂正を。

(日本初公開時劇場鑑賞)
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