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哀れなるものたちのKuutaのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8
新しいものに出会い、何度も目を見開く。体は自分のものなのだから、最大限使って道を切り開く。ベネデッタに近いものを感じた。身体から主体性を立ち上げる。バービーとは逆の形。

(脚本と主演はクルエラのコンビ。成長に合わせて衣装を変えながら、アイデンティティを見出していく)

ランティモスの中では大衆寄り。「女性向け」を強調する日本のCMがなんだかなぁと観る前はモヤモヤしたが、指原莉乃という人選は納得のポップな内容だった。

実験と改善の精神が花開いた19世紀の科学の世界で、なぜか女性は置いていかれた(服を綺麗にしろと言われる学会)。豪華絢爛な美術と音楽(人の身体っていろんな音が出るよね、を体現しているような)は十分に楽しいが、魚眼レンズやウィップパンなど撮影はややワンパターン。グイグイ進むベラ(エマ・ストーン)のおかげで鑑賞意欲は続いたものの、ブラックな笑いを抑えた直球な脚本は、私がランティモスに期待するものとは違っていた。ハードル上げすぎたかな?

・ゴドウィン(ウィレム・デフォー)は父に一定のリスペクトがある。ベラを作り、監禁し、父と同じ科学への執着を持ちながら、ベラの家出を認める。ベラはゴドウィンが誕生の経緯を隠したことを非難しつつ、それを許す。父の両義性を受け止め、あくまで生の肯定に帰着し、自身も科学者の道を進む。

今作はシンプルなフェミニズム映画のようでいて、父を倒されるべき悪として描かず、家父長制の打破も目指さない。「期待される枠組み」から微妙に外れていく今作全体のトーンと脚本は合致している。

(その点、衣装や振る舞いが終盤に向けて「普通」になっていくのは、それで良いのか?とは思った)

・ベラの冒険譚に着いていけないダンカン(マーク・ラファロ)が出る場面はどれも楽しい。洗練さとは程遠い、時空がバグった2人のダンスはベストシーンだったし、ベラに見捨てられた後のパリの広場で叫ぶしかない姿、動く気力を失っても口だけは回る情けなさがとてもよかった。
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